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「魔法士との戦い」

勇者アリーチェは、外見は碧眼金髪の10歳ほどの可憐な少女だった。

しかし、勇者としては幼すぎるために言葉での説得が難しく、かと言って強制すれば逆鱗に触れて使い魔を出されるかも知れず、彼女の扱いに皆が手を焼いていた。

異世界召喚時の「死」の恐怖がずっと払拭できなかった事も有ったのだろう。


何度か世話係も交代する中、一人、ジェーナという3年兵が何故か気に入られ専属の世話係になる事となった。

ジェーナは体格は優良、素朴な顔立ちで贅沢もしない田舎に仕送りをしている女性の「出稼ぎ兵」で、3年で兵役を終え、退役する予定だった。

彼女によれば、気に入られたのは、妹が3人と弟が1人居て、小さい子の扱いに慣れていたからだろうとの事だった。

退役後は田舎に帰り、実家の牧農を手伝い、やがては良いダンナさんを見つけて家庭を作る、そんな平凡な生活が待っているはずだった。

しかし、アリーチェに気に入られ、ジェーナ以外にすんなりと言う事を聞かせられないことが多いため、おそらく4年以降も兵を続けることになりそうだった。


今回の模擬戦ではアリーチェとその横にジェーナが立っていた。

アリーチェに行動指示を伝えるために。


「アリーチェ様、今日は模擬戦です。あの緑の勇者様と対戦してほしいとの事です」

ジェーナの言葉にアリーチェが返す。

「あの緑の人、おもしろいよね、ふふふっ」

ジェーナは柔和な顔で答える。

「確かに面白いですが、今日はあの緑の勇者様を倒してください」

「どうすればいいの?」

ジェーナの言葉にアリーチェが少しぴりっとして訪ねる。

「そうですね・・・攻撃魔法を放って、倒せば終わりです」

「ただ相手は動きが素早く、弓と短剣が武器なので、遠くからは弓矢を、近づかれたら短剣を注意してください」

「ただ殺すほど強力な威力では魔法を当てないで下さい。」

「相手は勇者様、同じ敵と戦う仲間なのですから」


「じゃあビリビリ来て飛び上がるヤツでいいかな?」

「電撃系、確かに良いですね。遠距離でも、投射範囲が広いですから」

「わかった。面倒だから早い目にやっつけてお部屋に戻りたいからね!」

「ええ、それがいいですね」

ニコニコと会話するアリーチェとジェーナ。


それに対し、迅代はあらかじめ、戦い方を検討し、組み立ててきていた。


セレーニアから聞いた魔法士の戦い方は、距離を取った攻撃魔法の投射。

防御魔法展開による、敵の攻撃からの防御。

混戦になる場合は前で戦う仲間への攻撃力や防御力強化、敵の動きを邪魔するような拘束系魔法での支援など、だとか。

そして損害を受けた味方を治癒する回復魔法も有ると言う。

特に相手魔法士の攻撃力の及ぶ範囲や防御力の及ぶ範囲のに入れば不利は免れない。


ちなみにアリーチェの攻撃範囲と防御力範囲を聞いてみたが、兵錬場を中心に、10キロにも及ぶのだろうと推測されている。

めちゃくちゃだ。

肉眼では見えない範囲では無いか。

そのような攻撃領域を展開する場合は、使い魔を使って領域を把握するのだと言う。

言わば10キロ四方にドローンを配し、ターゲットを見つければミサイルを撃ち込む、そんな戦い方だ。

その上に大規模魔法を使えば、大型爆弾、もしくは気化爆弾並みの破壊力が有る攻撃も出来る。

これでは中世レベルでの戦争では次元が違う戦い方、ワンサイドゲームになる。


開始前、魔術師によって迅代に対する保護の魔法がかけられる。

回復魔法は有っても、死んだ人間を生き返らせる魔法は無いとの事だった。


判定官が前に進み出て、開始を告げる。戦闘開始だ。


今、迅代とアリーチェが対峙している距離は50メートルほど。

無論、攻撃も防御もアリーチェの領域範囲内だ。

もしかしたら気付く間もなく迅代を倒せるのかも知れない。


早速、迅代の腕にピリっと静電気が走るような感覚を感じる。

その瞬間、迅代は大げさなアクションで回避を行う。

「ジジッ!」

迅代が元居た場所に土煙が上がり、地面が焦げていた。

電撃魔法のようだった。

『やはり来たか』

迅代は事前にセレーニアから魔法攻撃を体験していた。

即席の対策しか編み出せなかったが、それは、魔法攻撃の兆候に対して、反射神経全開で回避する事。

当たり前の事だ。

しかし、魔法力が異次元に勝る相手にはそれしか無かった。


攻撃を避けて腰屈みになっている迅代を見て、ボーズギア皇子は周囲の取り巻きに話す。

「しかし、装備も無様なら戦い方も無様、どの面を下げて勇者などと言うのだろうか」

その言葉に周囲の兵は「その通りです。勇者たるものは姿勢も大事ですからなあ」

などと「緑の勇者」をあげつらって楽しんでいた。


「ジジッ」「ジジッ」

何度かの攻撃をうまく回避する。

『回避しつつ、接近し一撃を入れるが対抗策なんだが、まだ1メートルほどしか近づけていないか』

迅代は心の中で焦る。

アリーチェの手数が多く、付け入るスキがない。


模擬戦を観戦するギャラリーのはずれに、少し立派な甲冑を着た男二人が、迅代の戦いを見ている。

近衛隊第二部隊の隊長と、第三部隊の隊長だった。

二人は兵学校同期で普段から忌憚無い意見を交わす間柄だった。

第二部隊隊長のクレファンスが口を開く。

「なかなか素端っこいな、緑の勇者様」

第三部隊の隊長ドーズが言う。

「そりゃ仮にも勇者様だからだろ」

その言葉に反論するようにクレファンスが言う。

「いや、役立たずのゆう、ん」周囲を気にして声を落として言い直す。

「役立たずで戦力外の外れ勇者ともっぱらの噂だったじゃないか」

その言葉にドーズが答える。

「俺は自分の目で見た物しか、話し半分でしか信用しない事にしている」

「今見ているのが緑の勇者様の実力だって事だ」

クレファンスが返す。

「じゃあなんであんな噂が流れて、事実のように言われているんだ?」

ドーズが応える。

「力が足りないのは事実みたいだが、それよりも、別の力学ってやつが働いているからだろうな」

その言葉にクレファンスは押し黙る。そのあたりの事情は最近の城内を見ていれば嫌でも感じるものだから。


アリーチェは少しイライラしてきた。

「すばしっこいよ、緑の人」

確かにジェーナも思う。ここまで回避されることは滅多になかったと思う。

「では10連に切り替えましょう」

ジェーナの言葉にアリーチェは頷いて叫ぶ。

「もー、いっちゃえー!」

アリーチェは迅代に向かい腕を振り下ろす。

すると今まで一筋だった電撃が円周を囲うように10本落ちる。

「ガーン!」

10本のかみなりの音が響きギャラリーに悲鳴が起きる。


迅代はこの攻撃を何とか避けられたが、1本の電撃に慣れて、回避範囲が小幅になっていた。

そのため、足に電撃の影響を食らってしまったようだった。

この後連続して攻撃が有れば倒されていただろう。


少しアリーチェに隙ができる。

電撃1本より少しインターバルが要るのかもしれない。

この機を逃さず、迅代はクロスボウでの射撃を行う。

当たればラッキーだが、本命は自身の短剣攻撃だ。

撃ったクロスボウは捨てる。もう次発装填などする余裕は無いだろう。

間髪入れずに足の負傷を押して突進する。

「えい!」

アリーチェの声と共に矢は難なく叩き落される。

しかし時間稼ぎだ、問題ない。


ダッシュ時の加速度は満足の行くものだった。

足は痛むが速度的には十分出ている。

「くぅ!」全力のダッシュに声が漏れる。

ここで距離を詰めないと、どんどんと不利になり、一縷の勝ち目も無くなると判断した。

『後、30m』

『、20m・・・』

「アリーチェ様、エアウォールを!」

ジェーナの声にアリーチェが動く。

「えい!」

アリーチェが両手を迅代に向けて振り出す。

「ぐはっ!」

迅代は見えない壁にぶつかり声を上げてひっくり返る。重い空気の壁のようだった。

衝撃は大きくなかったが、迅代の行き足を止めるのには十分だった。

倒れた迅代を見て、アリーチェが再び手を上げる。


「ガーン!」迅代の体を10本の電撃が包んだ。

10本の電撃で、一瞬倒れたままの迅代の体が飛び上がった。

迅代は見事に気を失ってしまった。

アリーチェは魔法で空気の障壁を作り、ぶつかったタイミングで10本の電撃魔法を放ったのだ。


迅代の負けであった。

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