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「陽動攻撃部隊」

アイルズ子爵領の魔王軍占領地域に出来つつある防衛拠点の破壊と再占領の作戦行動を魔王軍討伐部隊が実施する事となった。


部隊参謀と司令官であるボーズギア皇子が協議を重ね、作戦立案を行った。

作戦の基本は、陽動部隊を後方に派遣し、敵の目を引きつけ、頃合いを見て正面から主力で攻撃する。

ボーズギア皇子は失敗したく無いからこそ、初陣で成功した作戦に固執していた。

だが、初陣での勝利は、スカウト部隊が状況を示すマップを作っていて、危険を避けて作戦を迷いなく遂行できたからだった。


今回は、魔王軍が占領前の状況はマップが有り把握しているが、占領されてからの状況は不明なままだ。

それを探る余裕のある戦力も無い。

状況が分からないのなら、下手な陽動など行わず、3勇者の優位性を生かして、正攻法で攻めるほうが良いと言う意見を言うものも居た。

しかし、ボーズギア皇子は、そんな意見を出した参謀に、参謀ならもっと頭を使え、とあげつらい、敵兵力を分散させると言う作戦の魅力を優先した。

そして最後に、信じられない一言を付け加えた。

「後方に進出する前に見つかったとしても、その場で戦い、陽動を達成すればよい」と。

それは孤立無援で戦え、という意味と同義だった。


陽動攻撃部隊は、状況の分からない敵地の奥深くに侵入し、攻撃を行うと言うとてもリスクの高い任務を押し付けられた。

しかも、今日、すぐに出発しろとの命令だった。

明日の朝の攻撃開始に間に合うようにと。


陽動攻撃部隊の隊長となった騎士アークスは、この決定を伝える参謀に食って掛かった。

「敵地の状況も解らずに、奥地まで侵入して、陽動を行えですと??」

「言うが安しでしょうが、とても敵の警戒線を見つからずに突破できるとは思えない!」


そんなアークスの声を聞いても、参謀は取り合ってくれない。

「ボーズギア司令官閣下の命令です、誰ももう覆すことは出来ません」

視線を逸らす参謀に、アークスはまだ食い下がる。

「俺たちに死ねって事ですか?」


視線をそらしたまま、参謀の男は口を開く。

「ボーズギア皇子殿下は今回は完全勝利を欲していらっしゃる」

「その求めに、家臣である我々は、命に代えて、ご奉公するのが本懐であると心得るべきだ」

その言葉は、死して任務を達成せよ、と言う意味だった。


「命令違反や敵前逃亡により経歴を穢すより、死しても忠臣である事を選ぶのが、賢い生き方だと思うよ」

「家門のためにもね」

参謀はそう言って命令書を渡すと去って行った。


『勇者ジンダイ様にやらせていた囮の役目を、今度は俺達にやらせるつもりだ』

『俺の死など関係無いという事か・・・自分の名声のために・・・』

騎士アークスは心の中で呟くと、急いで出撃準備に取り掛かった。



「うへぇ、やっぱりわたし達出撃するんですか」

出撃装備で馬に乗ったオーリアは、同じく騎乗しているアークスに向かってぶー垂れる。

オーリアの後ろにはヴォルカも同様に馬に乗って、また余計な事を言っている、と言う風な顔をしている。


そう言われていつも反論したり嗜めたりするアークスが、今日は反応が悪い。

「あれ?アークスさん?元気ないんすか??」

オーリアは考える顔のアークスにずけずけと問いかける。


「ええい、うるさい、上に立っていると考え事もするんだよ!」

アークスはいつも騒がしいオーリアに感情的な反論をする。

オーリアはきゅと首をすくめて、口を閉じた。


オーリアとヴォルカは、騎士アークスと共に、部隊本部として、ロングボウ部隊を護衛する役割となっていた。


隊列の先頭に、この3人が進み、後方に、陽動攻撃用のロングボウ部隊として6名の兵が付いていた。


この部下たちを、みすみす死なせるのか、そう思うと絶望感が沸いてくる。

『俺は良い、家のためだ・・・だが、こいつらはどうだ?』

『こいつらも俺のために死なせるのか?』

『リスキス村での戦闘の時のように死ぬ前提の任務で』

『勇者ジンダイ様に救われた恩義として、二人を育てると誓ったのに』


騎士アークスの自問は結局、敵の領域に侵入する頃になっても答えは出せなかった。

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