「お買い物」
迅代の想定外に自身の容姿が目立っているのは不本意ではあるが、街中を歩いている内に、なんとかこの姿にも馴染んで来た。
まずはクロスボウの取扱量が多い武器屋を覗いてみる事にした。
特にクロスボウの扱いが多いのは、都市の3つ有る商店通りのうちの東通りにある「ライズの武器屋」だとリォンリーネから紹介された。
東通りは3つの商店通りの中では一番小さい商店通りで、15店ほどの店が有った。
ただ、少し進めば貧民街なので、あまり治安が良くは無かった。
東通りに入って数件の店を行き過ぎると、武器屋を示す看板があった。
「ライズ武具店」と書いてある。
「ここですねえ」
「あまり、武器屋は入ったことが無くて、ちょっと緊張します」
そう言ってリォンリーネは少し不安な顔をしている。
「では、入って見ましょう」
迅代は扉を開けて、店内に入って行く。
店に入ると、いろいろな武具が並べてある。
そして奥には、無表情な痩せた男がロングソードを磨きながら、ジロリと迅代達のほうを見た。
「少し見せてもらうよ」
迅代は声をかける。
後ろからリォンリーネがちょこんと付いてくる。
店主らしき男は「ああ」と言って、ロングソード磨きに戻る。
迅代は店内の武具をぐるりと見て回る。
店内の武具はどれも整備が行き届いているようだ。
余計な汚れの類は付いていない。
ただ、あまり高位の武具は置いていないようだ。
リォンリーネのほうは少し離れて、自分の興味が有る武器小物を見ている。
店の左奥にクロスボウが6丁ほど飾ってあった。
用途別に、狩猟用、冒険者向け用と並べて有り、1丁だけ軍用とされている物が有った。
その軍用の物は、一つだけ高価で、2つほど桁が違っていた。
製作者が書かれておりジール謹製と書かれていた。
『ジール・・・ああ、セレーニアさんに案内してもらった、あの十三工房の爺さん・・・』
飾ってあるクロスボウは新開発の連射クロスボウでは無かった。
そのクロスボウをジッと眺めていると、店主らしきオヤジが声をかけて来た。
「それは簡単には売れないよ」
その声に迅代は答える。
「ジールさんの作ったものだからですか?」
迅代の答えにすこし黙る店主。
そして口を開く。
「ジール師を知っているのか?」
この反応に、迅代はしまった、と思った。
『余計な事を言うんじゃなかった、近衛隊の武器工房との関係を聞かれるとマズい・・・』
そう思いながら、すこし誤魔化す。
「いや、その・・・友達に聞いたんですよ」
「とても丁寧な工作をする人だって」
迅代は焦りながら答える。
その様子に、店主らしき男は「ふーん、そうか」とだけ言った。
話し出したついでだと、迅代は本題を切り出す。
「実は、クロスボウのストックを探しているんですが、ストックだけで買えたりしますか?」
その声を聞いてリォンリーネも迅代の近くに寄って来る。
「・・・」
店主らしき男は少し黙って、口を開く。
「緑髪の体格の良い野郎に、エルフみたいな嬢ちゃんが、クロスボウのストックだけくれと来たか」
「しかも、ジール師も知っているみたいだしなあ」
「この2~3年で一番の奇妙な客だな」
そう言われて焦る迅代。
「奇妙な客でも、お客さんなんですよう」
リォンリーネが口を挟む。
「なんだ?武器屋には武器屋の対応ってものが有るんだよ」
「そこいらの商店みたいにお客様様々みたいな商売はやってないんだよ」
口を挟まれて反感を示す店主。
リォンリーネが反論しようとするのを迅代がとどめる。
「すみません、良い物が有れば買いたいだけなんです」
「あのジールさんのクロスボウの下に飾ってある狩猟用クロスボウのストックは売っていますか?」
迅代は低姿勢で店主らしき男に言う。
「・・・まあいいだろう」
「工房からストックだけ仕入れてやるよ」
「あのタイプなら1万ピネ※だな」
※10万円
店主らしき男はぶっきらぼうに言う。
「そ、それは高いでしょ」
「高いですよう!」
迅代と、リォンリーネは口をそろえて言う。
ふん、と、してやったりの顔をする店主らしき男。
「特別に注文するんだ、そのぐらいするよ」
からかうように店主らしき男は言う。
「わかりました、ならば、注文通りのもので作ってもらえるなら、その金額を出します」
「図面を引くので紙を出してもらえますか?」
迅代はそう言って、紙とペンを借りて、リォンリーネに目配せをする。
リォンリーネも意図をくみ取り微笑む。
何をするんだ?と思いながら店主らしき男が神とペンを差し出すと、迅代とリォンリーネは話し合いながらストックの図面を書いて行く。
上下、左右の図で、穴あけ位置や寸法を詳細に書き込んでいく。
そして、材質の指定もついでに書き加えておいた。
紙にびっしりと書き込まれた指示に驚く店主らしき男。
「お、おい、これを作れってか?」
店主らしき男の声に迅代は言う。
「1万ピネならこのぐらいの仕事はしてくれるでしょ」
リォンリーネも頷いて、言う。
「そうですねえ、ここまで作ってくれたら、1万ピネでも満足ですよう」




