「変装」
迅代はリォンリーネに髪を染めてもらう事になった。
実験室兼湯あみ部屋で観念して座って待つ迅代。
『髪を染めるのは初めてだな・・・』
『しかも緑って・・・どんな風になるんだろうか』
ヘアカラーとは全く無縁で、髪も短めメインだった迅代はすこしそわそわしていた。
この2か月ほどの逃亡生活で、髪の毛も伸びてきていた。
前髪や、側面は気になれば自分で切っていたが、後ろ側は自分では切れないので伸びていた。
「ふふふん、ふーん」
リォンリーネは鼻歌を歌いながら、桶状の木の入れ物に、毛染め道具を詰め込んで入ってきた。
迅代と目が合うなり、リォンリーネは口を開く。
「暗くなると残念な感じになるかもしれないので、発色の良い明るめで行きますかねえ」
「え?明るい目、ですか?」
想像していなかった言葉に迅代は焦る。
「そうですよう、きっと似合いますよう」
「え・・・本当ですかね?・・・」
そう迅代は答えてみたが、とても似合う自信が無かった。
「やっぱり最初は地味目で、大人しい感じで・・・」
迅代は腰が引けた返事をしたが、リォンリーネは明快に否定する。
「でも、最初の印象から変えちゃうと、2度目に顔を合わせると、染めてるってバレちゃいますよ」
「染めて見て上手く変装できれば、今後も外出できますからねえ」
リォンリーネの言葉に、そうだなと迅代は納得した。
新しいキャラクターを作り上げて、今後はその容姿で町の人たちに認知されれば良いと。
それにあまり印象が変わらないと、勇者ジンダイを見た事がある人にはバレるかも知れないという不安ももたげて来た。
「わ、わかりました、印象は変わる感じで、でも、そこそこでお願いします」
オシャレは攻めない迅台は、やっぱり腰が引けていた。
リォンリーネはそれを聞いてくすくすと笑いながら、楽しそうに準備を進める。
散髪屋のように頭だけ出して、体をシートで被う。
そして、頭部の地肌保護のために油を塗って行く。
「さて、塗りますかねえ」
リォンリーネは手のひらサイズのおわんに溶いた緑色のペーストを見せて言う。
「こんな感じでいいですかね?」
青緑色の強烈に鮮やかなグリーンだった。
これではどんな遠くからでもすぐに見分けられるだろう。
「いやいやいやいや、派手過ぎです!」
「もう少し暗くお願いします!!」
「そうですかねえ、綺麗なのに・・・」
リォンリーネは残念そうに言う。
『色は綺麗でも、その髪色になる俺には合わないよ・・・』
迅代は心の中でツッコんだ。
リォンリーネは迅代の意向に従って、もう少し暗緑色の色味を混ぜて、大人しくしてくれた。
「ではこんな所でしょうかねえ」
さっきよりは少し地味目の青緑色になっていた。
「で、では、これで・・・」
迅代はさっきよりはマシと、その色で染めてもらう事にした。
「はい、全体の塗り込みは出来ましたよう」
「少しの間、色を髪に馴染ませるために、タオルを巻いておきますねえ」
そう言って、リォンリーネは頭にくるりとタオルを巻いてくれた。
少しすると、染色剤のせいか、髪が徐々に暖かくなり、蒸れて来る。
「ちょ、少し熱いんですが・・・」
迅代はリォンリーネに不安そうに言う。
「ああ、そうでした、ちょっと熱いですが我慢ですねえ」
リォンリーネは平気な顔で言う。
「え、いや、大丈夫でしょうか・・・」
「ええ、大丈夫ですよう」
きっぱり言うリォンリーネの言葉を信じて、迅代はじっと我慢した。
頭は我慢できないほどは熱くはならなかったが、それなりに熱かった。
待っている間、リォンリーネはメガネのデザインをしてくれた。
上側が濃い茶色のフレームが目立つメガネで考えてくれた。
かけていると少し上部のフレームが目障りかもしれないが変装のために仕方が無い。
このメガネなら顔の印象がメガネに引っ張られて、瞳の色まで注意が行かないだろう。
「そろそろ見てみますかねえ」
リォンリーネはそう言うと、頭のタオルを取って、塗った油も拭ってくれた。
「上手く色が乗っていますねえ、お湯で髪を洗ってください」
リォンリーネは、体のシートを外して、お湯を持ってきてくれた。
髪を洗い流した後、迅代は鏡で自分の姿を見てみる。
「確かにこれなら大丈夫かも知れない・・・好きではないが・・・」
そう呟いて、リォンリーネに見せる。
「おお、イメージ通りになりましたねえ」
「メガネはまだフレームだけですが、これを着けてみてください」
そう言って、製作途中のメガネフレームを渡してくれた。
そのメガネをかけて銀蒸着の鏡で見てみる。
これならば、勇者ジンダイと一目でばれる事は無いだろうというぐらいには、イメージを変えることが出来た。




