「実射」
リォンリーネが苦心の末改造したコイル型加速器の実銃への装着実験を行う事になった。
以前借りた空き食糧倉庫に、また、試験射撃のセッティングを行う。
まだボルトアクションの銃への組み込みは完成していないので、銃身と薬室、開閉できるボルト、のみで、手動で撃針を引っ張って撃つ形とした。
銃身は、リォンリーネがコイル式加速器を考えている間に、迅代が一所懸命、80リング※の長さの銃身を掘り上げた。
※約48cm
その後、試作品開発で疲れているリォンリーネには申し訳なかったが、48cmの長さに3条のライフリングを掘ってもらった。
この作業は集中してやる必要があるため、1日ゆっくり休んでもらった後、4時間連続で作業をしてもらった。
20リング※の銃身を使った中折れ式拳銃の4倍の長さなので、作業時間も4倍と言う訳だ。
※約12cm
そして銃自身は、完全に発射台に固定しての試射とした。
なにせトリガーもストックも無く、射撃の反動を抑えるには固定するしかない。
発射台とは言ったが、銃撃の反動を抑えるため、頑丈な木箱に石などの重りを入れただけのもの。
そこに銃の一部分を金属金具で打ち付けただけのものだ。
照準も、その台、木箱を左右に動かすか、金具を外して銃口を上下に調整する。
そんな感じだった。
標的は、以前使った木の板に同心円が描かれた標的。
そして、鉄の板を用意していた。
鉄の板は厚さは、2リング※、4リング※※、6リング※※※と3種類を用意した。
※約12mm ※※約24mm ※※※約36mm
2リングの物でライフル徹甲弾並み。
4リングの物で対物ライフル並み。
6リングの物で第二次世界大戦時の対戦車砲並み。
ぐらいの感覚だ。
なお、倉庫の外に弾が飛び出さないように、標的の後方には土嚢を積み上げ、ダメ押しの鉄板が置いてあった。
そして射手である迅代も厳重装備だ。
厚めの皮の防護用エプロン、肘まである皮の長手袋、そして顔面には鉄製のお面とフル装備だ。
なにせ、呪符弾薬も初めて使う。
そして、加速器を動作させた射撃。
最後はリミッター解除しての射撃を考えていた。
「まずは、加速器は使わず、呪符弾薬の通常弾を使います」
迅代はリォンリーネに知らせると、周囲を見回して安全確認をする。
リォンリーネは、ノートと筆記用具を持って、射撃性能を控えるために構えながら言う。
「遮蔽しましたよう!」
「では、撃ちます!」
迅代はボルトの中央部から飛び出ている金具、撃針を引っ張って放す。
「ボッ!!!」
低いが大きな音と共に銃口や薬室部から青白い煙が立ち上る。
「発射成功」
「標的にも・・・命中」
同心円の右外側に黒い点が浮かんでいる。
「では、マーキングと鉄板を置いてきます」
迅代はそう言うと、標的に開いた穴に「通常弾のみ」と記入して、後方に2リング※の鉄板を置いた。
※約12mm
迅代は銃の元に戻ると、ボルトを解放して、空薬きょうを取り出す。
特に変形も無いようだった。
「呪符の弾薬は上手く動作したみたいです」
迅代がリォンリーネにから薬きょうを見せる。
「おおお、結構わたし良いカンしていますよう」
リォンリーネはちょっとドヤ顔で感想を言う。
最初の試作時の、黒煙粉の弾薬と同じ爆発力の再現を言われて、リォンリーネが調整した呪符を薬莢に込めていた。
そして撃針の刺激により魔道コイル作動させ呪符を起動する仕組みも上手く行ったようだ。
「では、次は、加速器を使います」
迅代は、また通常弾を薬室に入れて、ボルドを閉鎖する。
そして、ひょろっと飛び出た端子に指を伝って魔力を送り込む。
加速器内にある魔石で出来た部品が弱く青白く発光する。
「準備出来ましたね」
リォンリーネが覗き込んで動きを確認して言う。
「では、リォンリーネさんは下がって、遮蔽をお願いします」
リォンリーネが5mほど後ずさって、言う。
「遮蔽しましたよう!」
その言葉で、迅代は、撃鉄を引いて放す。
「ボッ!!キィーーーン!」
「ガズン!!」
迅代は息をのむ。
とりあえずは、銃の部品が飛び散るような事は無かった。
標的のほうを確認すると、拳大の穴が開いていた。
「お、おお、凄いですね・・・」
迅代はすこし驚いて標的と鉄板を確認する。
12mmの鉄板は命中部分に3cmほどの半球のへこみと、裏側は鉄板に亀裂が入っていた。
「鉛弾だから貫通は出来なかったか・・・」
「しかし、この威力なら・・・」
迅代が想像した通り、銃身と同じ金属を使った粗削りな徹甲弾で4リング※の鉄板を貫通できた。
※約24mm
また、リミッターを解除した加速器で3倍の加速となり、徹甲弾を使えば6リング※の鉄板を貫通する威力が有った。
※約36mm
この武器を使いこなすことが出来れば、正に勇者並みの戦闘力を持っていると言って誰にも文句は言われない。
迅代はそう思った。




