「試作銃」
最後の難関、銃身の製作に取り掛かる。
まずは鍛冶屋で最も硬い合金で直径2.5リング※ほどの円筒形の棒を数本作ってもらった。
※約15mm
銃弾の口径が1.5リング※なのでそれより1リング※※太いというわけだ。
※約9mm ※※約6mm
この円筒形の棒の中心部に1.5リングの穴を魔法でまっすぐに掘ってもらうと考えていた。
金属加工の魔法はいろいろな製品を作る過程で習得してもらったが、金属の硬度が高いと、それだけ時間がかかる。
20リング※の長さの銃身ともなれば1日仕事になるらしい。
※12cm
しかも集中力を途切れさせると、ブレてしまうようで、休憩無しで何時間も加工の魔法をかけ続ける事になるようだ。
「さすがにそれは難しいですね・・・」
迅代はあらためて魔法で切削する方法を聞いて、失敗する可能性が高いと考えるようになった。
「いえいえ、できるような気がします、やってみますよう」
リォンリーネはそう言うが、何本も試作するには不向きと迅代は考えた。
銃身の穴は道具を作って時間はかかっても定常的に掘る事が出来る言わば専用のボール盤のようなものを作ったほうが良いと考えた。
無論、電気やモーターは無いので、すべて人力か魔法力で動かすことになる。
そのうえ、その道具もしっかりした強固な基礎と銃身の素材の固定が出来て、ぶれずにドリルを回せる仕組みがいるが。
そこは、迅代はリォンリーネを説得して道具を作る事で進めた。
ドリルに相当するものは、鍛冶屋に銃身と同じ合金でほぼ銃口と同じ口径の棒を作ってもらい、それをリォンリーネが加工することにした。
先端はノミのような形で刃先は鋭利にしたうえで、強化の魔法をかけて。
結局、専用ボール盤の動力は、人力となった。
無論、動かすのは迅代だ。
この専用ボール盤はちょっとした机サイズで、ドリルを回すには、手押し棒を人が持ってもってそのボール盤を歩いて一周して回す形だ。
1周で約0.5mmほどの深さが掘れるので、単純計算で240周すれば良い事になる。
「ぐはああああっ!」
迅代はボール盤の手押し棒を必死で押す。
硬質の合金に穴を開けるので、かなりの力が必要だった。
しかし、銃のためだ、と3度刃先を交換したが3時間ほど頑張って貫通させる事が出来た。
『同じ苦労は要るが、これで何度も同じ品質の銃身の元を作る事が出来る』
作業を終えた迅代は、疲れてはいたが、心は踊っていた。
だが、結局、そこからはリォンリーネの魔法頼みだ。
銃口内のライフリング※は絶対に欲しいが、今のこの世界での工業力では実現できない。
※銃身内に掘った溝で、発射した弾を回転させることで弾道が安定する。
「むむむむむむむ・・・・」
リォンリーネが必死に銃口内を睨みながら魔法で銃口内にらせん状の溝を掘る。
しかも、3条、同じ深さ、同じ曲率で。
かなり人間が制御するには難しい部分で、迅代は、ちょっとしたブレや誤差は仕方がないと考えていた。
「で、できましたよう・・・ぜーー、はーーー」
1時間ほどで作業を終えたリォンリーネは、別人のような疲れた顔をしていた。
その様子を見て、銃口の切削はボール盤を作って良かったと迅代は思った。
そして、最後の仕上げ、銃身と本体の接合だ。
銃身の基部にねじ切りを魔法で掘り、銃本体にねじの回して留められるようにした。
その銃身の外側を、金属の外被で覆い、銃身本体は見えない形にした。
銃口部のサイトはこの外被に付けるし、発射後の放熱も考えてのことだ。
これで、ようやく試作銃が形としては完成したのだった。




