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「不満」

「危ない所、支援攻撃をありがとうございました」

クレファンスは勇者アリーチェの一団の元に行き、礼を述べた。


勇者アリーチェはさっとジェーナの後ろに隠れる。

それを見て苦笑いをするクレファンス。

そこで、ジェーナが代わって受け答えをする。

「急いでは来たのですが・・・大きく損害を受けてしまったようですね」

ジェーナの言葉に、クレファンスは頷く。

「敵はたったの2体でしたが、とても強力でした」

「部隊も大きく損害を受け、すぐには再行動をする事は出来ないでしょう」


そこでアリーチェはジェーナの裾を引っ張って、耳打ちをする。

「・・・わかりました」

アリーチェに返事をして、耳打ちされた内容を代弁するためにクレファンスに話す。

「アリーチェ様の回復担当のヒーラーが1名同行しています」

「アリーチェ様は大丈夫との事なので、急遽、治療に当たってもらいます」

「負傷者を集めてもらえますか?」

その言葉を聞き、クレファンスの顔が明るくなる。

「ありがとうございます!」

ジェーナはさらに続ける。

「また、もうしばらくすれば、魔法支援部隊本隊のヒーラーが2名到着するでしょう」

「そのヒーラーにも治療に当たってもらえると思います」

クレファンスはその言葉を聞いて、部下に負傷者を集めるように指示を行った。


この迅速な魔法支援部隊の来援で、近衛隊第二部隊の兵士及び負傷兵の数多くが助かる事になった。


しかし、攻撃点の右翼側は、損害と負傷兵の対応で戦果拡大の行動はとれなくなってしまった。


その右翼側に、突如として騎馬と馬車の大軍が姿を現した。

その部隊の掲げる旗は狼を中央に据えた荘厳なデザインであった。


狼旅団であった。


右翼から魔王軍の強力な部隊(といっても兵士2名であったが)が撃退されたと聞き、部隊を集結させてきたのだ。

部隊の中心にいる、煌びやかなプレートメイルの騎士が、近衛隊第二部隊の前を通る時に、フェイスガードを上げて敬礼した。

アイルズ子爵であった。


アイルズ子爵を認め、クレファンスも敬礼を返す。


クレファンスは横に居る副長に向かって言った。

「仕方が無いんだろうが、まんまと手柄を持っていかれちまうな」

「やはり、敵の反撃の撃退を待っていたんですかね」

「そうだろうな」

「だが、あちらさんも領土を占領されているんだ、たとえ後ろ指を差されても、甘んじて受けて領土奪還を優先するだろう」

クレファンスと副官は、狼旅団の隊列が右翼奥深くに進行していくのを見送った。


狼旅団は所々の抵抗拠点を蹴散らし、快進撃を続けた。


通過した地域には、次々と動員によって水増しされた後詰めの部隊を配置し、再占領を行った。


その勢いは当初の魔王軍侵攻開始点を超えて、200クロメルト※ほどまで領地境界に沿って進出し、かすめ取られた領土を奪還出来た。

※約120km

魔王軍が浸透攻撃により占領したすべての地域を奪還できたわけでは無いが、80%ほどの奪還は完了した。


やはり、魔王軍も皇国軍の反撃部隊を完封できるほどの戦力はまだ持っていないようだった。

しかし、気になるのは黒いもやを纏った兵士の存在だった。

たったの2体で、精鋭の近衛隊第二部隊の右翼側半分とは言え壊滅寸前にまで追い込んだのだ。


これに対抗するには、騎士クラスの兵力を複数で対抗させるか、勇者をぶつけるしか無さそうだった。


とにかく、アイルズ子爵領で起きた魔王軍による侵攻作戦の帰趨は決した。

アイルズ領の全ては奪還できなかったが、主要な防衛拠点の多くを破壊できた。

後は兵力を充足させて残りの防衛拠点を潰して、全ての領土の奪還を目指す形になるだろう。

しかし、今は、両軍ともに消耗を充足する必要が有った。


だが、この戦いで唯一割を食った近衛隊第二部隊の指揮官、クレファンスは不満が残っていた。

何故、黒龍支隊は動かなかったのかと。

黒龍支隊が増援に来れば、損害も半分以下に抑えられただろうと。


ボーズギア皇子の何らかの思惑なのか、それとも、護衛を手放したくなかったのか。

そこがどうしても納得がいかず、思いを払拭出来ないでいた。

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