「魔王軍討伐部隊」
迅代が勇者の任命を受けた翌日、魔王軍討伐部隊の編成が発表されたとの情報をセレーニアが持て来た。
3勇者は遥か以前に勇者任命の儀も終えていて、迅代を含め、すでに部隊の概要が作られていた。
しかし、セレーニアは不満が有るようだった。
セレーニア自身も部隊の司令部に入るよう働きかけていたのだが、それは認められなかったのだという。
まずは、部隊の司令官は、皇国第一皇子ボーズギアが就くのだと言う。
迅代はセレーニアの情報提供の中で出てきたのと、勇者任命の儀の時に少し見ただけの人物なので、どういった人物か、セレーニアに聞いた。
セレーニアは少し思う所が有るのか少し言いよどんだ後に口を開いた。
「私も直接指揮を受けたり、模擬戦を行ったりは、したことは有りません」
「現在は近衛隊第一部隊の指揮官を行っており、軍事に関して素人と言う訳ではありません」
「今回の編成も近衛隊第一部隊を基本に改編されたもののようです」
「ただ、皇国の後継者となるかも知れないお立場から周囲の持ち上げもあるという事は聞きます」
「あと・・・」
「あまり先入観を与えないようにと皇女殿下からも指示が有りましたので、お伝えしなかったのですが」
「皇女殿下と皇子殿下は水面下では対立関係にあります」
「今の状況では、3勇者様は皇子殿下が抑え、ジンダイ様は皇女殿下が抑えているという世間の評判になっています」
セレーニアの言葉を聞いて、迅代はげんなりした。
戦いに派閥の論理を持ち込むとロクな事が起きない。そう思っていた。
だが、一国の力関係とはそういったものだろうと言う理解もしていた。
気を取り直し、部隊概要に目を向ける。
まずは主力、攻撃部隊。
そこには攻撃特化の剣士ヴィンツと、魔法戦士ザーリージャが属し、若干名の兵士が付くと言う。
そして魔法支援部隊。
魔法士アリーチェを中心に火力支援を主に行う部隊なのだと言う。
ここにヒーラー部隊と若干名の護衛兵となっていた。
確か使い魔が強力では無かったのか?と疑問に思った迅代はセレーニアに聞いた。
セレーニアの説明によれば、使い魔の召喚は大きな魔力を消費するため、大規模魔法「スレッジャーギーム」と両立させると消耗が大きいのだと言う。
もう一つ支援部隊の名を関した部隊が有った。
弓兵部隊だと言う。
開戦時のロングボウによる支援射撃、そして、遠距離支援を行うのだと言う。
そして、スカウト部隊。
指揮官は迅代。希望通りと言う訳だ。
そこに若干名の兵士が付くと言うのは他の部隊の表記と同じだった。
そこで迅代が気づく。
「攻撃部隊、魔法支援部隊は勇者とは別に指揮官が居るんだな」とセレーニアに聞く。
「剣士ヴィンツ様、魔法戦士ザーリージャ様は部隊の指揮には興味が無いとおっしゃり、正面の敵を打ち砕けば良いのだろ、という態度のようです」
セレーニアが答える。
迅代は脳筋だなと少しあきれる。
更にセレーニアは続ける。
「魔法支援部隊のアリーチェ様は、そもそも人を指示できるような年齢では無いので・・・」
迅代はそこはなるほどと思った。
そして、補給部隊と司令部部隊、輸送伝令部隊といった部隊が並んでいた。
一応、部隊配置は悪くない感じだな・・・
そう迅代は評価した。
問題は兵力がどのぐらい配備されるのだろうか?
4人チーム×2チームで分隊、さらにそれが4分隊は欲しい。
そんなことをぼんやり考えていた。
その日の午後、迅代の居室に、伝令がやってきた。
「勇者ジンダイ様、突然なのですが、司令官殿がお呼びです」
部隊編成の概要が発表されたばかりなのに、いやにせっかちな司令官だな、と思ったが、出向かないわけにはいかない。
とりあえず城の外の近衛隊の兵練所まで案内される。
広場のような所に台が組み上げられて、儀式で見た皇子が座っていた。
横に何名かの兵士を侍らせている。
そして、皇子の前に、壮年の剣士、筋肉が隆々の女性戦士、そして幼い少女が居た。
少女だけは椅子に座っており横に女性兵士が付いていた。
迅代の到着にその3人が視線を送る。
この3人が3勇者と言う訳か。
そう考え、日本人らしく会釈をしてみる。
男性剣士にはじっと見た後視線を外され、女性戦士にはあからさまにプイと横を向かれ、少女には手を振られた。
そして並んだ3勇者の両側に、20名ほどづつ兵士が並んでいる。
「勇者ジンダイ殿も来られたようですね」
皇子はくつろいだような恰好は崩さず言った。
「今回召喚された4人の勇者殿が一堂に会するのは、この場が初めてと思う」
「改めて、本日編成の概要が発表された魔王軍討伐部隊の司令官、ボーズギア・ブリガルデゼーンと申す」
少し偉そうだと迅代は感じた。勇者を殿呼びという事は、同格と言うアピールなのかも知れ無い。
「ヴィンツ殿、ザーリージャ殿、アリーチェ殿の勇者たる力は重々承知しているのだが」
「ジンダイ殿の実力の程は全く分からぬ状態」
「姉君ももっと情報を開示してほしいものだ」
ため息をつくように言う。
ぼやきか?と迅代は心のなかで突っ込む。
「そこでなのだが・・・」
皇子は、もったいぶっているように少し溜める。
「正式な部隊編成の参考のため、勇者ジンダイ殿と、他の3勇者殿の模擬戦を行いたいと思う」
「うおおおおおおお!」
勇者4人の両側に整列した兵士が歓声を上げる。
そしてほくそ笑む壇上の皇子。
迅代はこの宣言を聞いて考える。
『なるほどそういう事か、実力の違いをまずは見ておこうという事だ』
『部隊の司令としては、各人員の実力の把握は必須、テストされるのは仕方がない』
『どこまで戦えるのかはわからない』
『しかし無様な戦いは避けたいが・・・』
今まで聞いた情報を考えると、とても勝つことは出来なさそうだった。




