「2体の敵」
テントのようなものがたくさん並ぶ平原の、そのテントから、魔物たちがぞろぞろと出てきていた。
コボルドやオークたちの手には刀剣や棍棒を持っていて、戦闘のために出て来たのが分かる。
そのテントの集まりの中心程の場所に、光が集まる。
近くにいたコボルドやオークが驚いたように注目する。
次の瞬間、その光が大きく爆発を起こす。
「ドオオオオォォォン!!!」
その爆発は爆心地を中心にテント村のほとんどを吹き飛ばし、光の柱だけが天に向かって伸びていた。
魔王軍討伐部隊の攻撃部隊指揮官は光の柱を確認して叫ぶ。
「突撃!!」
その言葉を聞いた勇者ヴィンツ率いる白虎支隊の一団が騎乗して突撃を開始する。
その突撃を支援する形で、後方からロングボウの矢が追い越してゆく。
支援攻撃隊のロングボウが、簡易の高見やぐらの兵士の指示で、敵兵力の密集地点を支援攻撃を行っていた。
皇国軍の反攻作戦は順調に進行していた。
白虎支隊の前には、Sクラスの魔獣ブラックヒドラが現れたが、勇者ヴィンツが瞬く間に9つの首を切り落として倒してしまった。
表皮がヒドラの中でも最も堅い鱗で覆われているのだが、ヴィンツの剣技と国宝剣「ガブルジーン」の組み合わせの前では関係無いようだった。
その後も、Aクラスの魔物が何体か出てきたが、これも直ぐに撃ち倒した。
こういう戦力の逐次投入は、皇国側の思うツボだった。
単体の対決で勇者ヴィンツは倒せない。
このような逐次投入では、戦力が減少するだけだった。
この状況は、皇国軍の対応が早かった事も起因していた。
魔王軍の防衛体制が整う前に攻め込まれた事で、秩序立った反撃が出来ていないためだ。
白虎支隊はすでに目標の侵攻地点まで到着していた。
魔王軍の防衛線は、外側だけが強固で、内部はスカスカだった。
これも短期間で行えた反撃作戦の賜物だった。
逆に侵攻速度が速すぎたせいで、後詰の近衛隊第二部隊のほうが追い付いていなかった。
仕方なく、白虎支隊は敵地奥深くで敵の反撃に備えつつ、待機する事となった。
その近衛隊第二部隊はと言うと、侵攻口からの占領地域を拡張しようと腐心していた。
先陣の白虎支隊がどんどんと前進する中、要地確保を行いつつ、白虎支隊に追従していた。
そこに、右翼側の偵察隊から敵大部隊接近を示す狼煙が上がった。
距離はまだ遠いが、まとまった魔王軍の反撃部隊が接近していることを示していた。
「やはり来たか」
「確認のためもう1部隊、偵察隊を送れ!」
近衛隊第二部隊の隊長、クレファンスは参謀に伝える。
敵が侵攻に対する反撃部隊を送ってくるとすれば右翼側だと見ていた。
敵が当初進出して来た突出部が右翼側のためと考えたがその通り的中した。
クレファンスは続報が有るか部下に確認するが、その後の狼煙は上がっていないのだと言う。
『発見した偵察隊はやられたか・・・』
偵察隊には、戦わず、敵の動向を知らせる事のみに注力しろと教育していた。
その偵察隊からの続報が無いとなれば、全滅したか、よっぽの危険な状態かだった。
「魔王軍討伐部隊のボーズギア司令官に伝令」
「右翼から敵有力部隊が接近中、増援を送られたし、だ」
クレファンスは危機を感じ、ボーズギア皇子に知らせるように指示した。
しばらくして。
近衛隊第二部隊の右翼部隊が、黒い霧状のもやを纏った兵士に接触した。
その数2体。
たった2体の魔王軍兵士と見て、近衛隊の戦士グループのいくつかが攻撃を仕掛ける。
しかし、その兵士は恐ろしい戦闘技能を持っており、襲って来た戦士たちを瞬く間に撃ち倒した。
近衛隊の戦士グループはミノタウロス級の兵士を討伐できる実力を持っているが、それが瞬く間に倒されたのだ。
クレファンスは突破されまいと敵を1体づつに分断し、各個撃破を指示する。
しかし、敵は1体でも強力で、戦士グループ複数相手でも、討ち取れなかった。
じりじりと前進する敵兵士に、戦士グループが攻撃を仕掛けるが、軽くいなされ、逆襲してくる。
ひとり、またひとりと脱落していく戦士たち。
近衛隊第二部隊の損害は大きくなっていったが、簡単に右翼の支えを突破されるわけにはいかない。
「魔王軍討伐部隊の増援はまだか!」
クレファンスが叫ぶ。
敵の強力な部隊が現れた場合は、、魔王軍討伐部隊の勇者を振り向ける事になっていた。
現状では司令部部隊を護衛する黒龍支隊が最もここに近いはずだった。




