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「恩義」

魔王軍討伐部隊は事前の作戦会議の取り決めで決まった攻撃開始点に移動していた。


ボーズギア皇子の司令部馬車は新しい物に作り直され、防御力が強化されていた。

その分重量が増えて、馬も6頭立てで引くものとなった。

しかし、それでも重量に対して馬力が不足しているのか、馬が疲れるのが早い。

随時馬を取り換えられるよう、補給部隊に専門の替え馬が用意されていた。


馬車に揺られながらボーズギア皇子は今回の作戦を内心では不満に思っていた。

『今回の作戦は非常に危険な役割を押し付けられた』

『まずは第一の犠牲は、アイルズ領の戦力が担うべきであろう』

『それを我が部隊に先鋒を押し付けて来るとは何事だ』

そうは思っていたが、作戦会議では覆すことが出来なかった。


皇帝の名代として派遣されたドルチェ軍事補佐官が、アイルズ子爵と概ねの作戦方針を既に決めており、作戦会議はその発表会だった。

ボーズギア皇子は不満を述べたが、軍事補佐官は「皇帝陛下がご裁可なされた作戦であり内容は変えられない」の一点張りで話にならなかった。

『わたしが皇帝になれば、あ奴は辺境の国境警備隊にでも左遷してやる』

そう思ってせめてもの留飲を下げていた。


行軍する魔王軍討伐部隊には、当然、魔法支援部隊の勇者アリーチェも参加していた。

アリーチェはお付きの兵であるジェーナがいつもとは口数が少なく心配そうな表情をしている事を察していた。

「ジェーナ、どうかしたの?」

アリーチェは同じ馬車に帯同しているジェーナに問いかけてみた。

「いえ、なんでもありませんよ、アリーチェ様」

ジェーナは微笑んで答えるが本心では無いように感じた。

「ジェーナ、言ってほしい」

「困っているなら、言って」

ジェーナは真剣に心配してくれているアリーチェを見て、意を決して口を開いた。

「前の戦いのときに、ここはわたしの故郷の領地とお伝えしましたね」

「うん、ひろーい畑が沢山有るって」

「そうですね」

「前の戦いで魔王軍が色々な所から攻めてきた時、姉が嫁いだ村も占領されてしまったんです」

「お姉さん、どうなったの?」

「それが、分からないそうです」

「村はもう魔物の勢力圏内で、様子を知ることが出来ません」


「きっと無事だよ!」

アリーチェは根拠は無いが慰めるために告げる。

「ええ、そうですね」

慰めに応えたが、問題はジェーナは不吉な噂を聞いており、その事が憂鬱の根源だった。

魔王軍に捉えられた人は、魔物の贄にされるか、魔物自身に変えられてしまうのだという。

もし魔物になった姉の姿を見た時に、正気が保てるのか分からなかった。

アリーチェの言葉でも元気が無い様子は変わらないジェーナにアリーチェは考えていた。

『元気にしてあげたい』と。

アリーチェは、この世界に召喚されて怖くて独りで不安だった。

その気持ちを解きほぐしてくれたジェーナに感謝していた。

その恩は、ジェーナが困っている時に返そう、アリーチェは幼いながらにそう考えていた。


魔王軍討伐部隊の攻撃部隊の先鋒、白虎支隊が攻撃開始地点に到着した。


今回は陽動攻撃部隊を敵後方には派遣していなかった。

魔王軍の警戒線にかからずに後方に進出は出来ないと判断されたからだ。


また、黒龍支隊も攻撃開始点にはいなかった。

最近は攻撃が開始されるまでは司令部部隊の護衛に着くことが定番となっている。


今回の攻撃起点は、魔物の兵士が比較的多く、Sクラスの魔物であるブラックヒドラも目撃されている場所だった。

恐らく、この周辺に戦力を供給する集積地点と考えられていた。

ここを叩き、魔王軍の戦力が弱体化した周辺領土も奪還していくと言う想定だ。


攻撃部隊の後方に魔法支援部隊も到着する。

大規模魔法「スレッジャーギーム」を撃ち込むためだ。


そして支援攻撃部隊も魔法支援部隊の後方に位置取る。

スレッジャーギームで撃ち漏らした敵が居ればロングボウで弓矢の雨を降らせる。


そして両翼に展開して側面援護をする、近衛第二部隊も準備が出来たようだ。

指揮官であるクレファンスは主力の戦士団を2つに分けて、魔王軍の増援が来る可能性が高い右翼で指揮を執る。

そして迅代が作ったスカウト部隊を真似て、偵察小部隊を複数組織し、敵の増援の予兆を知らせる体制を取らせていた。


なお、アイルズ領の虎の子、狼旅団の位置は、魔王軍討伐部隊にも知らせられていなかった。

極秘で行動し、敵の弱点を突くとだけ知らせられていた。


魔法支援部隊の勇者アリーチェが使い魔ジージーからの情報を基に、攻撃地点を決めた。

ジェーナがそれを白虎支隊に知らせる。


反攻作戦の号砲が今撃たれようとしていた。

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