「新編成」
魔王軍討伐部隊はアーロス領リスキス村の解放作戦で受けた大損害を補うためと、先の戦いの戦訓を取り入れた編成に部隊を再編することになった。
まずは攻撃部隊だが、2つの部隊に分割することが発令された。
勇者ヴィンツを擁する白虎支隊。
勇者ザーリージャを擁する黒龍支隊。
この2つの支隊を共に攻撃部隊が統括する形に編成替えとした。
このように分割したのは、前回の戦いでの奇襲が影響していた。
司令官であるボーズギア皇子が司令部に奇襲攻撃を受けた事がトラウマとなっていて、常時、どちらかの支隊を司令部の護衛として置いておこうというのだ。
魔王軍討伐部隊は、出現する魔王軍を迎撃し掃討するコンセプトの部隊であるはずだった。
その力の源となる勇者の攻撃力を2分割し防衛に振り分けるのは愚かな編成替えとも言えた。
無論、攻撃部隊の支隊としているのは、奇襲などの恐れが無い場合は統合で攻撃作戦を行う意図があると説明されていた。
しかし、戦場は流動的だ、思った通りに部隊の合流がかなわなければ分断されて各個攻撃を受ける可能性もある。
先の戦いで負傷した攻撃部隊指揮官が復職すると同時に、この決定に異を唱えた。
しかし、ボーズギア皇子は見せしめも兼ねて、攻撃部隊指揮官を更迭し、自分の意に沿う指揮官にすげ替えた。
自分に逆らう者は、この部隊には不要、という意思表示であった。
そして陽動攻撃部隊という部隊が新設された。
ボーズギア皇子が大変気に入ってる、後方陽動作戦用の部隊だ。
最初は勇者ジンダイへの嫌がらせとして発案した作戦だったが、今回の編成では使い潰しが前提のような部隊では無かった。
乗馬編成のロングボウと護衛兵士の部隊で、敵地への侵入に備えてある程度の単独行動を考慮された部隊となった。
この陽動攻撃部隊は、元スカウト部隊がベースとなっていた。
当然指揮官は、勇者ジンダイの後にスカウト部隊の代理指揮官となった、騎士アークスが任命された。
そして、護衛兵士としてオーリアとヴォルカの2年兵コンビもそのまま転籍となった。
勇者アリーチェの魔法支援部隊、そして、支援攻撃部隊、輸送伝令部隊、補給部隊はほぼそのままで、損害兵員を補充するのみに留まった。
編成が発令された翌日、近衛隊兵錬場では、アークスの監督の下、オーリアとヴォルカが乗馬訓練を行っていた。
「ほら、馬をヨタヨタさせるんじゃない、しっかり手綱を引け」
アークスは慣れない乗馬に苦戦しているオーリアとヴォルカを叱責する。
「結局、あのまま、騎士様の部下になっちゃったか」
オーリアは呟くように文句を言う。
ヴォルカは何も言わないが、彼も良くは思っていないようだった。
「ジンダイ隊長は今頃どうしているかなあ」
またオーリアが呟く。
ヴォルカも思う所はあるが何も言わない。
そうすると、オーリアがヴォルカに向かって言う。
「聞いてる??」
そう言われたヴォルカは驚いた顔をして返事をする。
「俺に言ってたの?」
そう言われてオーリアは膨れっ面で文句を言う。
「こんな事、あんたにしか言わないじゃん」
ヴォルカは面倒な顔をして、はいはい、と返事をしておいた。
心の中では、相変わらずオーリアは自分本位な奴だな、と呆れていた。
「こら!私語は慎め、訓練中だぞ!」
「それより、今度は早駆けだ」
アークスは話をしている様子を見とがめて叱る。
アークスとしてはこの2人を迅代から預かっている気持でいた。
だから、使える兵隊にして、無駄には死なせないぞという気持であった。
先の戦いでのボーズギア皇子の迅代に対する態度はあまりに酷いと感じ、すでに皇子への忠義の気持ちは無くなっていた。
だが皇国騎士であるため、近衛隊を辞める訳にも行かない。
皇子の護衛の任は部隊指揮官になったので解かれたが、好都合だと思っていた。
迅代に助けられた事を思い起こし、迅代を助けられる場面が来たら、助けようと心に誓っていた。
しかし、オーリアとヴォルカには、あまりその気持ちは伝わってはいないようだったが。




