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「勇者任命の儀」

皇帝謁見の間に居並ぶ貴族、司教たち。そして国家の重臣、そして皇族たち。

今日は皇帝が迅代を勇者として任命する日である。


部屋の奥には、大きな椅子に座った皇帝。そして、その両脇には成人皇族として、皇妃リューベナッハ、第一皇女クロスフィニア、第一皇子ボーズギアが立つ。

集まった者は皆、正装で身を包んでおり、これが権威ある国家行事であることを表している。


部屋では誰が歌っているのか分からないが、バックで荘厳なコーラスのような声が聞こえる

恐らくは部屋の見えないところで歌っているのであろう。

今の迅代になら感じられる、その歌声には魔法力の波動が混じっていた。

後でセレーニアに確認すると、清めの歌として、神事が行われるときに歌われるものとの事でった。

勇者任命の儀では最高位の6重奏で歌われるそうだった。


ひとしきりコーラスの歌声が響いた後、静かになる。

そして神官らしき老人が、うやうやしい動きで白い石のようなもので出来た台の上に載せた物を皇帝の前に差し出す。

皇帝はその載せてある徽章のようなものを確認し、受け取る。

神官らしき老人は、翻って退場した。


皇帝が口を開く。

「異世界より召喚されし勇者たるもの、ジンダイ殿、こちらへ」


迅代はこの世界の風俗に合わせた騎士の正装をまとい、居並ぶ貴族たち賓客の最後尾、セレーニアと共に列していたが、一人で前に進み出た。

迅代は中央の赤い絨毯を進む中、周囲の賓客の視線にさらされる。


勝手な思い込みかも知れないが視線が鋭いように感じる。

こんな式典の主役にさせられるとは、と勇者に成らなければよかった、と考えが浮かんだ。


元々、人前で主張するようなタイプの性格ではない。そういった行事は出来るだけ忌避してきた。

しかし、謁見時のクロスフィニア皇女の言葉は、迅代自身を真に想い、誠意を示す言葉で有ったため、断ることは出来なかった。

一度決めた事だ、と意を決して弱気を払拭する。


皇帝の席の前に膝まづく迅代。

皇帝が席を立ち、運ばれた徽章を手に、一段高いところから降り立つ。


この国では、勇者と皇帝は階位としては同じ扱いとする事となっている。

無論、皇帝のように国事行為の権限や行政権を持っている訳ではない。

名誉として、の階位だ。


「ブリムブリガ皇国皇帝シュバルツ・ブリガルデゼーンは、異世界から召喚されたジンダイ殿を勇者として認め、このしるしをもって、証とする」

「ジンダイ殿、立たれよ」

「はい、皇帝陛下」皇帝の言葉に立ち上がる迅代。

皇帝は迅代の胸に徽章を付ける。


徽章は5~6センチほどの大きさだが、精巧な獅子、その背中に剣を振り上げた剣士が彫刻されており、遠目で見ても、オレンジ、ブルー、レッドの光が目立つ宝石がはめられていた。

勇者の存在を誇示させるためのようにも感じられた。

「皇国が魔族の脅威から救われるため、尽力をさせていただきます」

迅代が応える。


「うむ、よろしくお願いします、ジンダイ殿」

その言葉に皇帝も応える。


会場には拍手の音がパラパラと響く。

皇帝の視線が逸らされたように思えたが、言葉を続けた。

「ブリムブリガ皇国に仕える全ての者に、皇帝シュバルツ・ブリガルデゼーンの名において命ずる」

「これよりジンダイ殿は勇者となった。皆、ジンダイ殿の助けになるよう行動する事を求む」

皇帝は言葉を放つと、周囲をぐるりと見渡す。

すると賓客たちの揃った声が言葉が部屋に響く。

「皇帝陛下の仰せのままに!」


儀典が終わった後、皇帝と皇女はその場を去り、残った者で歓談がなされていた。

主役の迅代はセレーニアの父であり、皇女派の主要メンバーでもある、ヴィジランテ公爵に紹介されていた。

ぺこぺこする迅代に、腰の低い勇者様だと評されていた。


その様子が伺える、少し離れた所から、皇妃リューベナッハ、皇子ボーズギア、そして国の重臣らしき何名かと集まって話していた。


重臣の一人が口を開く。

「ボーズギア殿下の手腕により、3勇者様の協力も得られることになりました。」

「つきましては、魔王軍討伐部隊の編成時には、ボーズギア殿下が司令官に最適任である旨、推挙しておきましたぞ」

他の重臣も同意する。

「さすがにこの流れに異を唱える者など居ないでしょう」

「司令官はボーズギア殿下以外考えられません」

「そのとおりですな」

重臣の言葉に気をよくしたボーズギアが言う。

「いやいや、権威、戦略眼、指揮能力を総合で見た場合に、私に伍する者とすれば、国防大臣とあといくらか居るであろう」

すると輪に交じっていた国防大臣が間髪入れず口を開く。

「とんでもございません。ボーズギア殿下に伍する力とは、恐れ多い」

「国家の大計を考えられるボーズギア殿下には及ぶはずもございません」

ボーズギアは時々、こうやって派閥内の者の態度を試す。

国防大臣の歯の浮くようなセリフに満足して機嫌が良くなる。


そこでリューベナッハは少し場の温度を落とさせる。

「しかし、結局今日は役立たずと評判が高い、勇者様が正式な勇者様になってしまいました」

「どうして。このような事になっているのでしょうか?」

微笑みの消えた顔で重臣たちを見回すリューベナッハ。


重臣たちに恐ろしげな表情がにじむ。国防大臣が苦しそうに言葉を継ぐ。

「はは、それが、皇女殿下のとても強いご推挙と、戦う実力も全く無力と言う訳でもなく、皇帝陛下がご裁可されまして・・・」

「我々としましては、皇族方にご意向には逆らえず・・・」


ひととおり言い訳を聞いた後、ボーズギアに向かいリューベナッハは言った。

「ボーズギア殿下。役立たずの勇者でも、勇者に成ってしまったことは仕方ありません」

「上に立つものは、役立たずの者でも上手く使ってこそ、より賞賛を受ける事でしょう」

「わたくしはボーズギア殿下ならこのような障害も難なく払拭して、勇者を使いこなした皇子となる事、期待していますよ」


リューベナッハの圧に少し気遅れするボーズギア。

「無論ですよ、母上。役立たず勇者の使い道は心得ております。」

「本物の3勇者様とどれほど実力が違うか、まずは知っていただくのが良いかと考えています」


ボーズギアの言葉に満足そうにうなずくリューベナッハ。

「さすが、我が子、人の使い方を正しく学んできたようですね」

あいかわらずペコペコしている迅代を見ながら言った。

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