「繁盛」
リォンリーネの店がオイルマッチの卸売りを始めて1週間ほどが過ぎた。
最初は1個、次は2個と注文が増えて行き、総計で40個の最初の生産分が完売してしまっていた。
卸値は最初の500ピネ※からそのままで売っているが、供給が追い付かず需要が多い状況なのでそのままの価格であった。
※約5000円
どうやら市場の売価は750ピネ~1000ピネ※ぐらいで売られているようだった。
※約7500円~1万円
売る店にとっても利益が大きいと評判で次々と注文が来る状態だった。
しかし、次の商品の開発を検討し出していたため、生産を一時止めていた。
「うーん、オイルマッチのほうもう少し作りましょうかねえ」
リォンリーネは少し悩んでいるようだった。
迅代としては、早く次の商品を開発して、銃制作のノウハウを身に着けてほしいと思う部分も有ったが、借金の話を聞いたので少し考えを改めた。
「そうですね、ここはちょっと稼ぐほうに注力しましょう」
「そうしないと、まとまった期間開発作業に時間が使えなくなるかも知れません」
迅代はリォンリーネに助言する。
しかし、リォンリーネはまだ迷っているようだった。
「オイルマッチも売れている内に多く売ったほうが利益を得やすいと思います」
「ここは頑張って働いて稼いじゃいましょう」
この迅代の言葉にリォンリーネも決心がついたようだった。
それから更に1週間かけて、頑張って100個分の生産を行い、どんどん来る注文を捌いて行った。
市場での価格は800ピネ程に落ち着いてきたようだが、卸値は変わらず500ピネを維持していた。
やはり、このオイルマッチはある程度収入が有る冒険者たちには好評だった。
魔法士の力を借りず、火起こしが迅速にできるとして評判になっていた。
正に迅代が想定していた通りだった。
さすがにここまで売れている商品だと、マルクの父親が経営するアトラーゼ商会の耳にも入ったようだった。
アトラーゼ商会の息のかかった道具屋から、卸元はリォンリーネの道具屋であることがバレたようで、マルクが店に尋ねてきた。
しかも、居留守が使えないように、半日ほど店の前で待つという気合の入り方だった。
リォンリーネはオイルライターの納品の帰りにマルクにつかまってしまった。
「待っていたよ、リォン」
相変わらずカッコをつけた感じでリォンリーネに声をかける。
「わ、マルクさん・・・」
リォンリーネは驚いて声をあげてしまう。
「最近、全く会えなくて寂しかったんだよ」
「うう、それはどうも・・・」
「それよりも、コレ、君の店で卸しているんだって?」
マルクは懐からオイルマッチを取り出した。
リォンリーネは、とうとう耳に入ってしまったかと、思いながら言う。
「え、ええ、そうですね、新しいアイデアが浮かびましてねえ」
「冷たいなあ、僕のパパの商会でなら一手に引き受けてあげるのに」
マルクは見下すような目でリォンリーネに問いかける。
「1個500ピネで良ければ卸しますよう」
リォンリーネは他の店と同じ価格を提示する。
これは、迅代と事前に話していて、アトラーゼ商会に目をつけられたら、同じ条件でなら卸そうと決めていた。
それを聞いたマルクはふっと笑いながら言った。
「僕の顔を立てて卸値は1個300ピネにしてくれないかな?」
「これでも大サービスしているほうだからね、それと独占販売の権利ももらえるかな?」
マルクは臆面もなく酷い条件を付けてきた。
しかし、リォンリーネはあらかじめこういった事が有ると想定していて、回答も考えていた。
「いえいえ、それなら結構ですよう」
顔色も変えずに答えるリォンリーネに、マルクの顔が豹変する。
「誰にモノを言っているんだ?」
マルクのドスのきいた声にリォンリーネは背筋に冷たいものが走る。
恐ろしくて一歩あとずさるリォンリーネ。
後ずさったリォンリーネを見てマルクの顔がさらに醜く笑ったように見えた。
その時、ふと店のほうに視線が行くとドアの陰で黒髪の男性がこの話を聞いていることに気づく。
迅代が見守っていてくれている、その事実はリォンリーネの心に勇気を与えられた。
「お、脅してもダメですよう」
「卸値は変えませんし、独占販売の権利も認めません」
リォンリーネは気圧されながらも反論する事が出来た。
マルクは怖い顔のまま少し黙った後、口を開いた。
「アトラーゼ商会の意向に逆らってリシュターで商売できると思うなよ」
じっとリォンリーネを見つめるマルク。
しかし、リォンリーネも視線をそらさない。
脅しが利かないとと見たマルクは、そのまま立ち去っていった。




