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「劣等感」

ボーズギア皇子は、アーロス領から戻った後、皇都から少し離れた別荘地に休養に出ていた。

無論それは言い訳で、魔王軍討伐部隊の大損害以降の数々の失点をどう回復するかを考えるためであった。


そこに、リューベナッハ妃が訪れて来たと言う。

母相手には居留守が使えない、あまり気分が乗らないが会う事にした。


別荘の応接室に通されたリューベナッハ妃は、ボーズギア皇子の顔を認めると言った。

「ごきげんよう、ボーズギア皇子殿下」

リューベナッハ妃は公式の場面で呼ぶ呼び方で、挨拶を行った。

「ご機嫌麗しく、母上・・・」

ボーズギア皇子は母の態度から、苦言の類を言いに来たものと理解した。

彼の母は必ずそうであった。


息子に皇太子である事の誇りを持たせ、それに相応しい存在であることを求め続けた。

そして、息子の行動が、皇太子らしからぬもの、母の意に沿わないもの、であった時ほど、あらたまって話を切り出す。

その特性は幼い頃から身に染みて分かっていた。


「まずは無事に皇都に戻って来た事、うれしく思います」

「そして、此度でも戦場で活躍したとの事、大変うれしく思いますよ」

リューベナッハ妃は扇子で口元を隠しつつ、慰労する言葉を発する。

無論、村は解放したが、部隊は損害を受け、村人も全員が行方不明と言う、勝利と呼んでよいか分からない状況を知っているのだろうが。


「母上、此度の戦は、思ったほど力が出せず、あまり良い結果とは」

ボーズギア皇子が母の言葉の過大評価の部分を正そうとするが、そこにリューベナッハ妃の言葉が被せられる。

「いいえ、ボーズギア皇子殿下」

その言葉にボーズギア皇子の言葉が止まる。

「あなたの戦い方は正しく、問題は外に有る事をちゃんと示すべきなのです」

ボーズギア皇子はその言葉を、自分の失敗など無かった事にしろと言う意図だと受け取った。

「は、母上、もちろんです」

「もし、わたしの指揮に疑念を言う者が居れば、許しはしません」

ボーズギア皇子としては、母の前ではそう言うしかなかった。


「今回の戦いでは、あの勇者らしからぬ勇者が口出しをしてきて、ボーズギア皇子殿下の考えに余計な迷いが出てしまったのでしょう」

リューベナッハ妃の言葉にボーズギア皇子は頷く。

「そうであるならば、あの出来損ない勇者は部隊から外したうえで、真の魔王軍討伐部隊を再度、組織しなおし」

「司令官の意思通りに動くものにする必要が有るのでしょう」

「そしてその司令官は、変わらず、ボーズギア皇子殿下が担う、そのような形が良いのでしょうね」


その言葉に、ボーズギア皇子は懸念点を問いかける。

「そうなれば良いのですが、父上や姉上が、かの出来損ない勇者を外すような事に同意いただけるのでしょうか」


その言葉にリューベナッハ妃は扇子で隠す口元が緩む。

「都合よくも、かの勇者は今は逃げ回っていてここにはいない身、国防大臣が指示すれば外すことも容易でしょう」

「そうして、部隊の陣容も、ボーズギア皇子殿下の信頼の置けない者は全て入れ替えれば良いでしょう」

リューベナッハ妃の言葉に、ボーズギア皇子はまだまだ皇族の生き方を分かっていなかったと反省する。

他者の意見や感情など、力でコントロールすれば良いのだと。


「そう言えば・・・」

思いついたようにリューベナッハ妃が言葉を切り出す。

「どうやらあの出来損ないの勇者は、町の噂では魔王軍に通じていたと言う事らしいわね」

「魔王軍討伐部隊も裏切り者のせいで損害を受けたものとか」

「あくまで噂話、真実は判らないでしょうけど、人の噂を押さえつける事はできませんからね」

そういうリューベナッハ妃の目は楽しそうだった。


その言葉を聞いたボーズギア皇子は嬉しくなった。

その噂話はリューベナッハ妃が組織を使って流させていることは分かっていた。

だが、世間の人々がそう思っているという事で、少し自分の変なもやもやした感情が癒されるからだ。


それは、皇子自身は気づいていないが、劣等感と言うものだった。

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