「挑戦」
迅代の世界の道具を作ってみる話は盛り上がったのだが、帰宅初日は、さすがに迅代もリォンリーネも長旅の直後でクタクタだった。
リォンリーネの住居兼店舗には実験室兼湯あみ部屋が有るというので、久しぶりに湯で体を洗って、夕食もほどほどですぐに休むことになった。
迅代は久しぶりのベットでの睡眠で、しっかり疲れを落とすことができた。
翌日、十分に陽が上った時間に迅代が目を覚ますと、リォンリーネが朝食を用意してくれていた。
「おはようございまーす♪」
顔を合わせると、楽しそうな声でリォンリーネが挨拶してくれた。
「あ、おはよう、ございます」
迅代も応えたが、なんだか旅の途中でした朝の挨拶と、家でする挨拶は違うように感じられた。
なんだか面はゆい感じ、という表現が合っていそうな、そんな感じだ。
屋根の下での会話というのが関係しているのだろうか?と変な理屈が思い浮かぶ。
後は、リォンリーネの服装もラフなうえにエプロンをしているのが新鮮に感じられたからかもしれない。
リォンリーネとテーブルを囲んで食事をしながら、迅代は、なにげなく予定を聞いてみる。
「お店は開けないんですか?」
その言葉にリォンリーネがぽつりと言う。
「昨日寝る前に考えたんですけどねえ」
「今日は仕入れた荷物の整理をするんですが、終わったら異世界の道具の話をもっと聞きたいんですが」
ちょっと期待感のこもった瞳でリォンリーネが問いかけてくる。
「そして、もし手が付けられそうなら、さっそく試作品を作ってみたいかなと・・・」
「ええ、もちろんリォンリーネさんが大丈夫なら、俺からもお願いしたいです」
リォンリーネの言葉に迅代は答える。
『よっぽど新しいものが好きなんだろうか?』
そんな事を思いながら、無論、迅代にとっては願ったりだった。
仕入れた荷物の整理は迅代も手伝って、夕方前には終える事が出来た。
そこで、少し休んだ後に、夕食を摂りながら、作る道具の方向性を考えることになった。
この日の夕食は、リォンリーネが作ったシチューのような色々な具の入った濃いスープとパンになった。
迅代は、久しぶりに食べる温かい料理が、とてもおいしく感じられた。
そんな食事の合間に作ってみる道具の話をする。
「俺の世界と、ここの大きな違いは、知識と技術、これに尽きますね」
迅代は自分の世界の道具の前提を語る。
「先人が考案や発見した膨大な知識と、それを実現する技術が高度に発達した世界でした」
リォンリーネはその言葉を聞いただけではさっぱり分からないという感じだった。
「例えば、どんなものがあったんでしょうかねえ」
「手のひらに乗るような大きさで、通信、いや、別の領地にいる人と顔を合わせて会話する機械が有ったり」
「暑い部屋を涼しくする機械や、食べ物なんかを冷やして長持ちさせる機械が有ったり」
「何日か先の天候を予測する技術が有ったり、星の世界に人を送る技術もありました」
「うまくいけば人は100歳まで生きられる世界でした」
迅代の説明に、目を丸くしてリォンリーネは感想を言う。
「なんですか?神様の世界ですか??」
「あ、でも、寿命はエルフのほうが長いですが・・・」
最後の言葉に迅代は苦笑いする。
『やはり、エルフは長寿なんだ』
そんな事を思いながら、具体的な道具について提案する。
「先に話した道具や技術は、色々な俺の世界の道具と技術を高度に組み合わせて実現していますから、この世界で実現することは難しいです」
「ですので、この世界の技術と魔法で実現できる道具でかつ、銃制作に役立ちそうなものを考えました」
その言葉にリォンリーネはワクワクしている目をしていた。
「ここでは火を起こすときには、主に火打石で起こしていますよね」
迅代はリォンリーネに尋ねる。
「えっと、そうですね、皆さん、火口と火打石でナイフなんかを使って火を起こしますね」
「わたしは魔法でやっちゃいますけど」
その問いにリォンリーネは自分の知っていることを答えてくれる。
「俺の世界では、ライターやマッチという小型で簡単に火を起こせる道具が有りました」
「これを作ってみてはどうかなと思いました」
迅代はそう言うと、リォンリーネの表情を見てみる。
「簡単にとはどのぐらいになんでしょう」
リォンリーネは想像できていない感じで質問してきた。
「ワンアクションで、しゅ、ポッと言う感じですね」
迅代は身振りと口述で説明する。
「え、そんなに早くですか??」
リォンリーネは驚いたように聞く。
「マッチならね」
「ライターの技術なら、蝋燭より便利な暗闇を照らす道具にも応用できます」
迅代の言葉にリォンリーネが質問する。
「お値段はどのぐらいでしょう?蝋燭はちょっと高いですからねえ」
その質問に迅代は頭の中で計算してみて答える。
「マッチは使い捨てですが一本0.1ピネ※ぐらいじゃないかな?」
※約1円
「ええええ??」
リォンリーネは目を丸くする。
「ライターは燃料がガスのものなら、10ピネ※以上って感じですね」
※約100円
「ええええ??こっちもそんな安いんですか??」
リォンリーネは更に目を丸くする。
「ちなみに蝋燭も何本かセットで10ピネ※でも売っていたかな?普段使わないのであまり覚えていませんが」
※約100円
「そ、それでは商売になりません・・・」
「さすがは神様の世界のような世界です・・・」
リォンリーネは値段の安さにショックを受けたようだった。
迅代はリォンリーネの驚くのを制止するように言う。
「でも、それも、大量に作る技術が有ってこその値段ですよ」
「この世界では1つ1つ手作りになるでしょうから、赤字にならない値段を決めれば良いです」
迅代の言葉にリォンリーネは安心する。
「で、その中の、俺もおおまかな原理を知っている、オイルマッチと言うものが良いのではないか思っています」
迅代の提案に、リォンリーネは尋ねる。
「作るのは火を付ける道具として、どんな方法で作るんですかねえ」
迅代は続けてオイルマッチの説明をする。
「油を入れる金属のケース、火付け用の金属棒、火打石を組み合わせれば作れそうです」
「火を付けるときは、火付け棒を金属ケース内の油に浸した後、火打石を棒でこすって火花を出し油に火を付けます」
迅代の説明を聞いて、リォンリーネはふんふんと頷く。
「確かに今まで聞いて来た道具の話より、想像できる範囲の道具でした」
「油はそんなにうまく燃えてくれるかちょっと疑問に思いましたがねえ」
迅代は鋭いと感じた。
揮発性と着火性が高く、入手容易な油がミソと思っていたからだ。
そんな油が有れば、ライターもランプもすでに作る人が出てきているだろうと思っていた。
「でも、挑戦してみたいです!」
リォンリーネは興味を持ってくれたようだった。




