「火炎槌」
マルクを何とか追い返した後、馬車の荷物のうちリォンリーネの分を見せに運び込んだ後、リォンリーネは用事で出かけると言う。
「まずは、亡くなった商人さんの家族と、冒険者ギルドに遺体を埋めている場所を知らせてきます」
「あとは、さっきのマルクさんに頼まれていた果物を届けないといけません」
「あ、それから馬車も返さないと」
「ジンダイさんは店内で休んでいてもらえますか?」
リォンリーネの言葉に迅代は頷く。
「店の中は見せてもらって良いかな?」
迅代は道具屋の陳列物に興味を持っていた。
「ええ、大丈夫ですよう」
「カギはかけちゃいますね、誰か来ると困るし」
そう言うとリォンリーネは扉の鍵をかけて、忙しそうに馬車で出かけて行った。
暇になった迅代は、店内の陳列物を順々に見ていく。
リォンリーネの店で扱っているものは、小物が中心のようだった。
皮や布で出来たバッグであったり、迅代も持っている竹のような植物で出来た水筒、ちょっとしたナイフのような金属小物、木製の食器がまず目についた。
これらは売れ筋なんだろう、店内の前のほうの目立つ場所に並べてあった。
後は生活用品の、金属を磨いた手鏡や、木製のクシ、砂時計、つけペンとインクなどの文房具、ハサミのようなもの、ルーペなんかも並んでいた。
ガラスや陶器を使った物は値段が高く、貴重品であることを思わせる。
店の奥の方には少し大き目な物、農業や工事に使うような、木製で先端に金属を使ったスキやクワ、板を組み合わせたバケツらしきものなどが有った。
更に店の奥のほうを見ると、加工用と思われる機械が置いてある部屋が有った。
どうやら自分で道具の制作や加工もしているらしい。
『そう言えば魔法の道具は店頭には置いてい無さそうだな・・・』
保存壺を見た時は凄いと思ったが、リォンリーネが言う通り、売ってはいないようだった。
そこで、ふと、少し前に王都で行った、銃制作の検討会の事を思い出した。
『あの時は、結局難しい、という雰囲気で終わったが、何か新しいアイデアをリォンリーネさんが出してくれるかも・・・』
そんな事が頭に浮かぶ。
御用学者のような失敗を恐れる議論では無く、挑戦的なアイデアが欲しかった。
陽も落ちる頃、店の扉の鍵を開ける音がする。
店の床に転がって眠っていた迅代がすっと目を覚まし、立ち上がって警戒態勢を取る。
「わー、ごめんなさい、遅くなってしまってー」
リォンリーネは済まなそうに声を上げて店に入ってきた。
迅代はリォンリーネを認めると、間髪入れずに、質問する。
「リォンリーネさん!道具も自分で作ってるのですか!?」
勢いよく聞かれてリォンリーネはたじろぐ。
「え、ええ、道具屋ですし」
さらに迅代は興奮したように聞く。
「俺の言うものを作れないか??」
「え?え?何でしょう??」
「銃というものを作ってほしいんです!」
「ジュウ?」
とりあえず意味が分からないので、リォンリーネは店内の応接用の椅子に座ってもらって話を聞くことにした。
「その、ジュウってどういうものなのでしょう?」
リォンリーネの質問に、迅代は答える。
「金属の筒から金属の弾を火薬で撃ち出す武器だ」
迅代の言葉を聞いたリォンリーネは少し押し黙る。
『これだけでは想像できないか?もっと説明を』
そう迅代が思った時、リォンリーネが口を開く。
「それは、ジュウではなく、火炎槌ですね」
迅代が目を見開く、リォンリーネは話を続ける。
「こーんな、1メルト※ほどのすっきりした金属筒で、離れた相手を魔法の矢のように射抜くことが出来る武器、って触れ込みだったかしらねえ」
※約60cm
リォンリーネは身振りで長さを示しながら、自分の知っている火炎槌について話す。
「それだ!!」
迅代は嬉しそうに声を上げる。
しかし、リォンリーネは淡々と続ける。
「実物は見た事無いですが、でも、あまり売れるような武器じゃ無かったらしいです」
想定と違った言葉に迅代は理由を聞く。
「それは、どうして・・・」
リォンリーネはその理由を説明してくれる。
「まあ、結局は非力な人が護身用に持つ感じの武器でしたねえ」
「火炎槌を使うと、盛大な音と煙が出るんですが、この武器を知らない盗賊なら逃げだすって感じですねえ」
「でも、兵士が持っている鎧や金属盾だと、へ込ませるのがせいぜいの、威力が無い武器だそうです」
「これならクロスボウでも持っていたほうが良いみたいですよ」
それを聞いて迅代は思う。
『なるほど、最初期の銃という感じか・・・その程度の物しかこの世界では作れない』
『それは、皇都での検討会と同じ結論と言う訳か』
迅代はリォンリーネの説明を聞いて、勢いを失い、うなだれてしまった。




