「謁見」
迅代はセレーニアを呼び出し、勇者としては力不足だが、条件を整えてくれれば、多少は役に立てるだろうと伝えた。
そしてこの皇国の人々を救う一助になるため、戦いに参加する事を告げた。
セレーニアはその言葉を聞いて喜び、皇女との謁見の場をセッティングすると告げた。
皇女との会談の日がやってきた。
王族用の謁見室に座る皇女クロスフィニア。
その横には側付きとしてセレーニアが立っていた。
皇女を前に跪き告げる迅代。
「皇女殿下、微力ながらこの皇国の危機に対して助力し、戦うことを決心いたしました」
「つきましては、戦うための装備などの支援をお願いいたしたく存じます」
クロスフィニア皇女はいつもと変わらない微笑みをたたえながら言った。
「勇者ジンダイ様、ご助力いただけるとの事、ありがとうございます」
「どういった支援が必要になりますか?」
「皇女殿下。その前に私は勇者としてではなく、一般の兵士と同じ立場で戦いたいと考えています」
勇者という立場で戦う事を否定する迅代。
困惑した表情が皇女に浮かぶ。
「・・・セレーニアからは聞いていたのですが、勇者としての飛び抜けた力の発現が無い事を気にされているのでしょうか?」
「はい、私は勇者と呼ばれるのに相応しくありません」
少しうつむき加減で迅代は言う。
「・・・」少し考える皇女。
そして口を開く。
「勇者ジンダイ様、ご自身の能力についてはわたくしがすぐに何とかすることは出来ません」
「しかし、わたくしは正しいしきたりで勇者召喚を行い、そこに現れたのがジンダイ様なのです」
「過去の歴史書を見ても、召喚された勇者が勇者でなかった事などありませんでした」
「それに、わたくしはジンダイ様を召喚し、戦いに向かわせる者」
「最低限の礼儀として、勇者としての待遇と、ご助力をする事が必要と考えています」
じっと迅代の目を見る皇女。
「・・・」
少し沈黙をする迅代。そして口を開く。
「わかりました、皇女殿下。勇者としての名に恥じぬように努力はいたします」
いつも表情を見せない皇女の顔に少し安堵の色が浮かんだ。
「申し出を受け入れて下さり、ありがとうございます、勇者ジンダイ様」
一息おいて皇女が口を開く。
「さて、支援についてはどのようなことを希望されますか?」
「はい、皇女殿下。私はスカウト部隊を編成し、それを指揮して3勇者の戦いを支援できればと思っています。」
「スカウト部隊ですか」
そう呟くとセレーニアのほうを少し見る皇女。
セレーニアが近寄り何か話している。スカウト部隊について説明しているようだ。
説明がひとしきり終わったころ、迅代が口を開く。
「私の世界では戦いにおいて情報を握る事は、味方を優位に導き、勝利をも左右するとされていました」
「強大な力を持つ3勇者でも、情報なき戦いでは余計な犠牲を生むこととなるでしょう」
「犠牲を抑え、味方の勝利に貢献できるよう尽力できればと思います」
迅代の説明を聞き、皇女が言った。
「素晴らしい事です。勇者は自身の強さだけではなく、仲間を思いやり、犠牲を起こさせないという考えも肝要」
「わたくしはジンダイ様が勇者にふさわしい人物であることを確信いたしました」
「ご希望が叶うよう、手配いたしましょう」
その言葉を聞き、迅代が答える。
「ありがとうございます、皇女殿下」
「ご期待に沿えるよう、尽力いたします」
皇女と迅代の謁見は両者が納得する形で落ち着いた。
しかし、勇者を使って国家の主導権を握ろうとする第一皇子は、皇女の勢力に失点を狙うべく、策を練っていた。




