「城塞都市リシュター」
アーロス領との境界を無事に越えたリォンリーネと迅代は3日間の移動を経て、リシュター領の中心都市、リシュターに入ろうとしていた。
リシュターは皇国の2番目の規模の都市であり、国防上の要の都市でもあった。
万が一の場合には城塞都市として孤立無援でもある程度の抵抗拠点に出来るように考慮されていた。
領主の城が有る城下町として都市の周囲には防壁と堀が整備され、都市に入る場合も検問が有るとの事だった。
「一応、検問は形式的なものなんですが、木箱の中に隠れてください」
リォンリーネにそう言われ、迅代は木箱の中に身を隠し、その上にいくつか荷物を置いて偽装した。
『この状態で見つかったら抵抗できずに捕まるな・・・』
迅代はそう思いながらも、検査は緩いと言う情報を信じて従う事にした。
入門の順番待ちの末、リォンリーネの馬車の番になった。
「通行証を」
3人の兵士がリォンリーネの通行証をチェックする。
「アーロス領からか・・・」
「そう言えば、黒髪、黒い瞳の者は見なかったか?」
兵士にそう聞かれ、リォンリーネは汗が出て来る。
「そそそ、そんな人知りませんよ!」
木箱の中まで緊張が伝わる言動に、迅代は木箱の中で頭を抱える。
『嘘が苦手なんだろうが・・・心臓に悪い・・・』
兵士のほうも突然焦った話し方になったリォンリーネに驚いたようだ。
「そ、そうか、知らないならいい」
「そういう風体の人物を探している人が居てな」
そう言うと、通行許可を出してくれた。
『勇者ジンダイを探しているにしては、いやにあっさりした尋問だったな』
迅代は木箱の中で外の会話に聞き耳を立てながら思った。
都市に入るとしばらく馬車で進んだ後に、路肩に馬車を止めて、リォンリーネは迅代を木箱から出してくれた。
「また、ひやひやしましたよ」
リォンリーネの顔を見るなり迅代は言った。
「す、すみません、疑われるのに弱いタイプなので・・・」
リォンリーネはしょんぼりと言う。
「でも、本当に手薄な検問で助かりました」
その言葉にリォンリーネは微笑んで頷いた。
「でも、黒髪、黒い瞳だと、その辺の人にも見咎められるかもしれませんね・・・」
「容姿を変えられないか考えてみますが、今は深いフードで髪を隠してもらいますかねえ」
リォンリーネはそう言いながら、荷物の中からフード付きのコートのような衣装を取り出した。
「これを着て、人には正面向かなければ、胡麻化せますかねえ」
迅代はその言葉に従って、コートのような衣装を着た。
色は青みのグレーで、ちょっとカッコを付けてるように見られそうだが、仕方が無いと諦めた。
その後、馬車で少し行ったところでリォンリーネの店に到着した。
「ここですよう」
馬車を止めてリォンリーネが声をかけてくれた。
「あまり人はいないので、今のうちに店に入ってください」
そう言いながらリォンリーネが店の玄関のかぎを開ける。
迅代が荷車を降りて急いで店の中に入ろうとしたとき、男から声がかかる。
「リォン」
迅代はドキっとしたが、平静を装い、馬車の荷車を降りる。
声の主は体格の良い身なりに気を使った感じの青年だった。
「マ、マルク、さん・・・」
リォンリーネがあまり歓迎していないような声で返事をする。
姿を見られた手前、迅代は再び荷車に戻る事も出来ず、荷下ろしの手伝いをする演技をする事にした。
「おや?誰だい?見ない感じの人だけど?」
マルクと呼ばれた男は、リォンリーネの向こう側のコート姿の迅代をジロジロと見る。
迅代は正面で向き合わないように、注意しながら、荷車から荷物を運び出す。
リォンリーネは迅代の動きに合わせて言う。
「ごごご、護衛の冒険者さんなの、荷物も降ろしてくれて、うれしいいなー」
リォンリーネは目が泳ぎながら説明する。
「ふーん、あんな感じの冒険者なんか居たっけ?」
迅代に向けられるマルクの視線を遮るように、リォンリーネが位置取りを変えながら話す。
「う、うん、アーロス領の村で雇った人なのー・・・」
少し語尾が上がっていた。
そして、向かいの店の酒屋を見て、頭にミード(蜂蜜酒)が浮かんだリォンリーネは説得力を増そうと続けて言う。
「ミ、ミードゥーさんって言うのよ」
迅代は、それを聞いて心のなかで突っ込んだ。
『余計な事を・・・嘘をつくときは饒舌になるもんだが、ハーフエルフも一緒か・・・』
そんな事を思いながら、荷物を運ぶ素振りを続ける。
「若そうなヤツだね」
マルクは更に気にしているようだ。
「はははぁ、そうなのかなぁ、護衛の人の年齢なんて気にしないからぁなあー」
リォンリーネの言葉を聞きながら、迅代を睨むマルクの目は少し敵意が有るように感じる。
「そそ、そう、ほら、今、帰ったばかりで忙しいので・・・」
「頼まれていた果物は後から商会にお届けするので、帰って待っていてくださいな」
あまり色々聞かれて鬱陶しくなってきたリォンリーネは、少し厳しめの応対をする。
それを聞いたマルクは、さっと髪の毛をかき上げて言った。
「分かったよ、リォン」
「また、食事でもしながら、旅の話をゆっくり聞かせてくれよ」
マルクはそう言いながらリォンリーネに流し目をして、カッコを付けて去って行った。
「ふぅ」
迅代はようやく演技をやめて、リォンリーネに言った。
「すまない、俺のために・・・」
謝る迅代にいえいえと手を振りながら言った。
「いいんですよう。いつも馴れ馴れしく寄って来る人で・・・」
「それでいて自分を大きく見せたいって態度が丸分かりの、面倒な人なので」
リォンリーネは本当にマルクを嫌っているようだった。




