「魔王軍対応演習」
セレーニアと護衛の二人は、アーロサンデの街中にある、貴族用の宿に泊まっていた。
街中でゴロツキに絡まれたことをトールズとアレジアに告げ、当面の間、3人で行動する事を命じた。
「さらにエスカレートさせてきますかね」
アレジアは心配そうにつぶやく。
「どうかしら、軽々な事は言えないけれど、指示しているのが誰かによるわね」
セレーニアは具体的な名前は言わないが、領主に指示ができる存在を示唆して言った。
「そんな、まさか、あのお方はそんな事まで・・・やりますかね」
トールズは信じられない、いや、信じたくないように言った。
「今は皇位継承にとって微妙な時期なので、失点は避けたいと思う気持ちは有るでしょう」
「それと、感情の部分で許せないと思っているように感じる」
「使える権力の範囲が大きいが故に、それが、過剰な反応になって出てきているように思う」
セレーニアはボーズギア皇子のこれまでの態度を見ていて思ったことを口にする。
「でも、その権力を振りかざして無理を通されると、私達だけでは到底対抗できないですよね?」
アレジアは開き直って圧力をかけてこられた場合を危惧する。
「そうね・・・」
セレーニアは考える目をする。
「こちらには勅命書があるので、公の場では対抗も出来る」
「しかし、表に見えないところで対応されると戦力が圧倒的に足りない・・・」
セレーニアはトールズとアレジアを交互に見て呟く。
「応援を呼びますか?」
トールズがセレーニアに問いかける。
「まだ、確証が無い状態けれど・・・手を打っておいたほうが良さそうね」
勅命書が有れば、依頼した部署の責任者の対応にもよるが、ある程度の依頼を通すことが出来きると考えていた。
セレーニアの呟きに心配そうにトールズが言う。
「でも、あのお方に怯まないような人と言えば、私たちの隊長ぐらいしか・・・」
セレーニアはトールズに微笑んで言った。
「そうね、近衛第四部隊の隊長の、ジェネイルさんが良いわね」
トールズとアレジアは顔を見合わせて言う。
「ええっ?、あのジェネイル隊長が来てくれますかね??」
「あの暴君が素直に言う事を聞くとは・・・」
そういう二人に、セレーニアは楽しそうに答える。
「大丈夫、昔に貸しが3つぐらいあるのよ、だからあなた達も使わせてもらっているんだから」
セレーニアの言葉にトールズとアレジアはさらに驚いていた。
今後の対応を立案していたセレーニア達だったが、相手方の打ち手のほうが早かった。
午後から急に、アーロサンデの街に布告がなされ、夜にかけて抜き打ちの魔王軍対応演習が行われることとなった。
アーロサンデを専属で守るように配備された部隊の、全力を動員してアーロサンデの街中に配備される。
その間は、外出は禁止、商店の営業も遠慮をするようにとのお達しだった。
実戦さながらの演習であるので、出歩いている者は軍で拘束するという厳しい物だった。
セレーニア達が宿泊する宿には意図的にこの情報は伝えられなかった。
この情報を聞いて対応策を取られないようにするために。
この通達が出る頃には、すでに街の重要ポイントには、部隊が配置されていた。
そして、セレーニア達が宿泊する宿に、向かっている一団が居た。
彼らがアーロス領の「掃除屋」だった。




