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「皇女とセレーニア」

セレーニアは時々、皇女にお茶に誘われる。

このお茶会は皇女の個人的な楽しみで開かれており、公式な予定には組み込まれていない。

その分、待女たちの関与も最低限、お茶会が始まれば、皇女の結界魔法で話す内容も外には漏れないようになっている。


周囲に窓もない白い部屋、その中央のテーブルに皇女は一人座っていた。

テーブルの上には紅茶に似たお茶が入ったティーポットとカップが2つ、それとお菓子を盛った皿が有った。

皇女はそれを頬杖をついて眺めて、足をブラブラさせながら座っている。


そこに、セレーニアが入室する。

「フィア、子供っぽいわよ」

セレーニアは皇女の事をフィアと呼んだ。


「だーって、セレンが遅刻するんだもーん」

皇女もセレーニアの事をセレンと呼ぶ。


このお茶会では、愛称で呼び合う事にしている。

公式な立場を一切抜きにした、くだけたお茶会なのだ。

セレーニアに言わせれば砕けすぎで心配になる、とのことだが。


席に座るセレーニアに皇女がお茶を入れる。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

「今日のお菓子はリシュター領特産のフルーツタルトなの」

「ちょっと気合入ってるヤツだからね」皇女は自慢げに言う。


「リシュター領・・・婚約のお話は進んでいるの?」

間髪入れずに聞くセレーニアに、

「はい、お説教は無し。何とか婚約しないで良い方法を考えてるんだからー」

頭を抱えて足をバタつかせる皇女。

皇女はリシュター領の跡継ぎに指名されているダイス氏を好きでは無かった。

しかし、もし皇女が皇国の跡を継ぐのであれば、皇国内で2番目に栄えている領地、リシュター領との血縁を結ぶと有利になる。

皇女派の勢力はその形以外に今のボーズギア派の勢いを止める事は出来ないと考えていた。


更に、皇女に押し付けられた期待外れと評される勇者ジンダイと、ボーズギアが実質支配している3勇者という状況がそれをも危うくしていたのだが。

子供っぽい態度を取る皇女に、セレーニアは微笑みながら考えた。

皇女殿下はこの時間が唯一わがままが言える時なのだと。

公式な場では一切容姿を崩さず、人々には公平で、微笑みを絶やさない。そんな人間など居る訳が無いのだから。


「勇者ジンダイ様はどんな感じかな?」皇女は何気ない感じで聞く。


恐らく、この話題が今日のメインになるだろうとセレーニアは感じていた。

「やっぱり3勇者とは力の差は大きいわ。1対1で戦えば勝つのは難しいでしょう」

「魔法力は一流魔法戦士ぐらい、剣術も短剣での戦闘は目を見張るものが有る」

「でも、勇者たる力は見られない・・・恐らく、3勇者と同列での戦いを強いられれば、厳しい結果が待っているかも知れない」


皇女はまだ足をぶらぶらさせたまま、セレーニアの言葉を聞いていた。

「おかしいなって思ってるのよねー」不意に皇女が割り込む。

「今までの8代にわたる勇者召喚の歴史書には召喚の贄が余ったなんて話、載っていなかったのよね」

「確かに勇者ジンダイ様を召喚するとき、適量より召喚の贄が少なめだったけど、正真正銘の勇者、と思う・・・」


この席は、くつろぎの場であり、思考の場でもある。

誰にも相談できない皇女が、ざっくばらんに確証の無い疑問をぶつける。

セレーニアはそれに応える役目でもあるのだ。


「でも、フィア、召喚の歴史書には、多少贄が余ったからと言ってわざわざ書くものなの?」

「うーん、わたしなら書くかな・・・召喚の贄は、それほど貴重なものだから」

セレーニアが言う。「・・・でも、今回は余った。過去8回は恐らく余らなかったのに・・・」


皇女は足のぶらぶらを止め、セレーニアから視線を外し、言った。

「だからねー、わたしは更にもう一人、勇者ジンダイ様の召喚を強く希望したの」

「今回の勇者召喚は今までの召喚とは違うって思って」

「その違いが何によるものか判らない。心配しすぎなだけで4人目の勇者も必要なかったのかも知れない」

「でも、胸騒ぎが抑えられなかったの。想定外の落とし穴が有るのかもって・・・」


皇女はいつの間にか怯えた顔になっていた。

「今までの勇者召喚のおかげで上手く魔族の侵攻を撃退できていたけど、もし想定外が有って皇国に大きな被害が出たら・・・」


「フィア、心配しすぎ」

皇女の手を握るセレーニア。

「ご、ごめん、セレン・・・気にすると不安が止まらなくなるから・・・」


セレーニアは明るい表情を作って言った。

「この何日か一緒に過ごした感じでは、勇者ジンダイ様は誠意を見せれば応えてくれるお方に思いますよ」

「ですから、魔族との戦いに参戦をお願いすれば、必ず応えてくれるでしょう」

「今の所は勇者ジンダイ様が戦える方法を色々と模索してみましょう」


不安を払拭するように言うセレーニアの言葉に、「うん」皇女はぎこちない笑顔で微笑んで答えた。

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