「リォンリーネ」
リシュターの道具屋、リォンリーネの馬車に便乗する事になった迅代は当面の行動について打ち合わせる事にした。
その前にと、まず、リォンリーネは簡単な食事を用意してくれた。
食事は干し肉とパンとスープであったが、迅代にとっては、スープが有るのは有難かったが、ふと疑問に思う。
「スープ、腐らせずに、どうやって運んだんですか?」
迅代はあたたかいスープをすすりながらリォンリーネに聞く。
「あ、気づきました?このスープ、4日前のなんですよ」
ちょっと自慢げにリォンリーネが言う。
「試作で作った魔法アイテムの保存壺にさらに魔法をかけてスープを長期保存できるようにしたんですよ」
その言葉に迅代は感心する。
「すごいですね、俺も魔法を習いましたが、まだまだです」
迅代の褒め言葉に少し照れるリォンリーネ。
「そうなんですか、わたしの店は魔法道具も作って売ってるので」
「でも、この保存壺は売るのはちょっと難しいです」
「何故なんですか?」
「壺だけだと保存期間が3割伸びるぐらいなので・・・」
「わたしが魔法をかけてやっと3倍になる感じです」
「それと魔法の有効期間は3日が限界なので、普通の人には使えない保存壺なんですよ」
それを聞いて迅代は不思議な顔をする。
「それでは、壺より、リォンリーネさんの魔法の力が凄いって事ですよね」
リォンリーネはちょっとしょげたような顔で言う。
「そうなんですよね。道具屋に向いていないのかも」
迅代は余計な事を言ったと思い、苦笑いをした。
食事の後、リォンリーネはお茶を入れてくれた。
ようやく今後の行動について話をする。
「ここからだとアーロス領とリシュター領の境まで、馬車であと1日ほどですね」
「分担なんですけど、昼間はわたしが馬車で進んで、ジンダイさんには荷台で休んでもらう」
「夜はジンダイさんに番をしてもらって、わたしは荷台で休む、というのでどうでしょう?」
リォンリーネの提案に、迅代も異存は無い。
リォンリーネは続ける。
「あと、リシュター領に入ってから3日ほどでリシュターの町に着きますね」
「一度、リシュターの町のわたしの店に来てもらって、そこで、隠れつつ情報を集めると言うのはどうですか?」
迅代はその申し出を有難いと思ったが、心配もする。
「確かに有難い申し出なのですが、いきさつはどうあれ、俺は追われている身です」
「リシュター領の様子は判らないですが、あまり巻き込むのは・・・」
そんな迅代にリォンリーネは感謝の言葉を並べ立てる。
「何を言ってるんです、先ほども言いましたが、わたしはとてもとても感謝してるんです!」
「それに死んだ仲間を埋めてくれました!」
「もう全財産をお渡ししても良いぐらいです!」
「今は借金のほうが多いですけど・・・」
最後の言葉は声が小さかった。
リォンリーネには多少自虐癖が有るようだった。
迅代は苦笑いをしながら言う。
「わ、わかりました。俺も安心して休息しつつ移動ができるので大変助かります」
「まずは、リシュターの町に着いてから考えさせてもらいます」
今後の話はこれぐらいにして、迅代としてはもう少し情報を収集しておきたかった。
「ちなみにですが、勇者ジンダイの悪評はどんな感じで聞いたんですか?」
迅代の問いにリォンリーネは話し出す。
「わたし達はこの道を3日ほど行った先の村に、素材取引していたんです」
「そこに、アーロスの守備隊と言う人たちが来て、リスキス村の惨劇では討伐軍は負けてない」
「裏切り者の勇者ジンダイのせいだーって感じでした」
「その時は、わたし達も、村の人たちも、怖いねーって話してましたよ」
「あと、守備隊の人に、リシュターに帰ったら、周りの人にも伝えてくれって言われましたね」
迅代は黙ってその話を聞きながら考えていた。
『リシュター領のほうでは勇者ジンダイが裏切り者だという伝えられていないという事だろうか』
『そうすると、アーロス領が盛んにジンダイは裏切り者、と触れ回っていると言う事だろうか』




