「独考」
能力測定を行った夜、迅代はこれからの事について考えていた。
『余りに実力が違う中で、微力ながらと少しでも役立てるよう戦いに参加するのか』
『それとも、勇者と言われているだけで、自分にその自覚も無ければ、実力も無い、それならば、戦う事を辞退するか』
そもそも、勇者として戦う必然性も無いのだ。
『本当に死を迎えた身だったとしても、勝手に蘇らせて、戦いを強制される言われも無い』
『静かにあの世に送ってもらいたいぐらいだ・・・』そんな考えが浮かぶ。
『だめだ、他の勇者との力の差を知らしめられる度に、自身の無力さに弱気になる』頭を振る迅代。
『もし皇国の人達が魔物と戦ってほしいと望むなら、戦う事への大きな抵抗は無い』
『元々兵士なのだ。国を守ることに命を賭け、敵の命も奪う覚悟も持っている』
『ただし、ここは日本ではなく、国民も日本人では無い』
『そこに抵抗感が無い訳では無い、が、人間対魔獣や魔人の戦いであるなら、人間側に与する事は不自然では無いだろう』と思う。
『魔王軍が世の中を治めてしまえば、今、この世界に生きている自分自身も大きな不利益を被るだろう』
『それは、皇女殿下やセレーニアさんの言葉を信じれば、なのだが・・・』
頭を掻きむしる。
今の情報ではこれ以上の答えを求めようが無い。
『皇国に味方する形での戦いに身を投じるか?と問われれば、今の時点では、イエス、だろう』
『皇女殿下もセレーニアさんも悪い人間では無い』
『そして、少なからず親交を交わした人達の頼みであるなら、それに応えるタイプの人間だという自負はある』
『だが、自分の能力で、何処まで魔王軍に通じるのか?と言う事だ』
『自動小銃を持つ一個分隊が有り、狙撃銃でもこの手に有れば、訓練してきた事が活かせ、ここでの戦いに工夫のしようも有るだろう』
『しかし、今は銃のような武器が無い中で、強力な個人能力、勇者としての絶対能力を求められている』
『魔王軍相手には、チーム戦ではなく、個人戦に特化しないとダメなのかは、今はわからない』
『だが、部隊間の戦闘行為であるなら、戦いのセオリーはそうそう変わるものでは無い』と思い直す。
『敵の戦力を知り、布陣を確かめ、効果的に部隊を運用する』
『特に通信や偵察機能が発達しておらず、部隊の移動速度も遅く、兵器の射程も短い、中世レベルの戦いであるなら尚更だ』
『偵察や斥候がうまく機能する事が出来れば、一方的な戦い方すら出来るだろう』
『この考え方まで落としこめば、勇者も能力値の高いシミュレーションゲームの駒に過ぎない』
『能力に見合った駒をぶつけるか、正面戦闘は避け足止め部隊で拘泥し迂回するなど、対策を取ることができる』
『そういう部分で下支えする事が、今の自分の能力に見合った行動の仕方だろう』そんな考えが迅代の中で強くなり、確信となっていった。
しかし『いや待て、勇者ってそういうものでは無いだろう』と反論が浮かぶ。
『勇者は困難に打ち勝ち、強大な敵も一人で打ち滅ぼす。そういうのが勇者。では、俺は何だ?』
『勇者としては、恐らく落第』
『戦闘に関する知識はあるが、指揮する部隊も仲間も居ない』
問題点はこの辺りかと思い至る。
『俺にはチームが無いと戦えない。個人能力ではなく総合戦力で戦う。そんなやり方しか知らない』
『「皇国の勇者」への期待に応えられる形では無いが、役立つことなら出来る。それが俺の今の結論だ』
と。




