追憶の彼方 後記
追憶の彼方の続きになります
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「ナナ」がいなくなって数日後のこと
学校から帰ってきた私は
2階にある自分の部屋に行こうと階段を上っていると
2階の廊下にブラウンとダークブラウンの毛が混ざり合った
小さな子がちょこんと座ってこちらを見ているのに気がついた
私がその子を凝視したまま固まっていると
やがて部屋から出てきた妹が
その子を抱えて急いで部屋に入っていってしまった
その瞬間、
それが何を意味するのかを悟り
私は思わず手にしていたカバンをぎゅっと握り締めていた
それが、妹なりの悲しみの形なのだと分かっていても
それを受け入れることが出来るほど
私は大人ではなかった
新しく家族となったその子は
「海」と名づけられた
海という名の由来は
「海王星」から来ているのだと
後に母から聞いたが
なぜ「海王星」であったのか
その時の私には分からなかった
その事に気付いたのはもっとずっと先のことで
気付いた時にはつい笑みがこぼれてしまっていた
「海王星」
太陽系にある8番目の星
ナナ番目の次の星
「カイ」は「ナナ」と違って
家族の誰にでも懐く子だった
特に白と黒の毛の彼、「リン」によくじゃれついていた
意外だったのは、
彼が「カイ」にじゃれつかれることを煩わしげに思っていたことだ
「カイ」は「ナナ」と同じように彼にじゃれつく
だが、「ナナ」に対しては大人しかった彼が
「カイ」に対しては怒るのだ
「カイ」が悪いわけではない
きっと、彼にとっても「ナナ」は特別だったんだろう
だから、同じようにじゃれつく「カイ」がイヤだったのだ
唯一の救いは、「カイ」がそれに懲りなかったことかもしれない
結局「カイ」が大人になって落ち着くまで
どれだけ彼に怒られようとも
じゃれつくことをやめなかった
私も最初は彼と同じように「カイ」を受け入れることが出来なかった
「カイ」が悪いのではないということは分かっている
それでも、私はイヤだったのだ
それでも、「カイ」を受け入れられるようになったのは
ある日、私の友達が家に遊びに来た時
「カイ」がその友達に向かって警戒心を示したからだった
「カイ」は家族の誰にでも懐いていた
だから、本当に誰にでもそうなのだと思っていた
だけど、「カイ」は私を含めたみんなをちゃんと家族として見ていてくれたのだと思うと
私の意地が情けなく思えたのだ
それ以来、少しずつではあったが
私は「カイ」を受け入れることが出来るようになった
「ナナ」と過ごした時間は
今思えばほんのわずかな時間だったけれど
「ナナ」が初めて家に来た日のことを
そして、「ナナ」が私の傍に来てくれたあの日のことを
私は忘れない
時が流れ
遠い記憶となった今でも
ずっと光り輝いている
大切な記憶
最後までお読みいただきありがとうございます
このとき、一緒に暮らしていた「りん」も5年ほど前に老衰で亡くなりました。
そして、この中で新たに家族になった「カイ」も、
老衰で3年前に亡くなりました。
今も実家にはこの子達の写真が飾ってあり
それを見るたびに、ななのことも思い出します