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ここは妖の集う家  作者: 物部リュウ
3/5

商店街探索


食器を片付ける手伝いを終わらせ、俺は外出の準備をする。と言っても財布とスマホを持つだけなので数分も掛からなかった。

外に出るために玄関の扉の方を向くと、外に誰か立っているのが見える。

小さな子供程の影が二つ扉に浮かんでいる。

靴を履きながら外に出てみると、誰もいなかった。



「あれ、おかしいな」



周りを見渡すがやっぱり誰もいない。

変だな、と思っていると後ろから声を掛けられた。



「坊、扉の前でどうしたんだ?」



振り返ると、其処には時雨さんが立っていた。

先程の薄水色の着流しではない、少し歩きやすそうな紺の和服を身に纏いこちらを見ている。

おかしいな。さっきまでここに誰かいたはずだけど、見間違えだったか。



「今誰か居た気がしたんですけど、気のせいだったみたいです」


「ほう、誰か…ねぇ」



笑いながら時雨さんを見ると、彼は少し悪戯が成功した子供のような表情を浮かべていた。



「時雨さん?」


「ああ、すまないね坊。それじゃあ行こうか」



そういって俺と時雨さんは家を出た。



その時後ろの茂みからこちらを見ている四つの瞳に気付かないまま。







急な坂を下りて行き、俺達は商店街の中を歩いていた。

少し寂れた商店街だが、田舎ならではの温かさを感じる雰囲気だ。



『いらっしゃいいらっしゃい!今日はこの魚が安いよ

!』


『この野菜とか、今が食べごろで美味しいよ奥さん』


『毎度!今日は良い部位入ってるぜ!』



商店街のあちこちから響く声。

廃れながらも、まだ活気のある商店街だという何よりの証拠だろう。

向こうの街ではあまり見なかった風景だ。



「ほら坊、あそこの肉屋の店主はいつも少しだけオマケをしてくれるんだ」



時雨さんが指さした先では、凡そ堅気とは思えない肉屋の店主がこちらを見ながら笑いかけてくる。



「あっちの魚屋の親父さんは目利きがとてもうまい」



反対側の魚屋のおっさんもサムズアップしながら満面の笑みを浮かべている。



「よお、時雨の旦那じゃねぇか。今日は買い物かい?」



豪快な笑みを浮かべながら肉屋の店主が話しかけてくる。見た目がヤ〇ザのようなおっさんの笑顔は少し、と言うかかなり怖い。



「いや、今日はこの子に街を案内しようと思ってね」



時雨さんに促されるまま少し前に出ると、怪訝そうな顔をした店主さんと目が合う。

ギロリと言う表現が適切なその眼付きは正直向かい合っているだけでも怖い。



「見ねえ顔だな、どこの坊主だ?」


「綾子の孫だよ。ほら、昔綾子が自慢しに来ていただろう」



睨みに全く動じないように時雨さんが言う。

店主さんは暫しの間俺の顔も睨み付けていたが、ふと何か思い出したかのように手筒を打つ。



「あの綾子さんにずっと引っ付いてたチビか!」



何ともあれな覚えられ方をしたものだと思う。まあ確かに小さい頃の記憶は朧気だが、ずっと引っ付いてはいないだろう。

店主さんは俺の頭をグリグリ撫でながら話を続ける。

今日は随分頭を撫でられる日だ。



「そうかそうか、あのチビもこんな大きくなっちまったのか」


「えっと、お久しぶりです?」


「覚えてねぇのか…っても、もう8年前だもんなぁ」



過ぎた月歳を思いながらか、感慨深そうに溜息を吐く。

すると店主さんは徐に自分の店の方に歩いていき、店の裏からゴソゴソと何か取り出した。



「ほら坊主、俺からの里帰り祝いだ。これ持ってけ」



渡してきたのはブロック肉だった。そう、大事な事なので二回言うがブロック肉だった。

随分と大きい、1㎏はあるだろうか。

受け取った肉をガン見していると、店主と時雨さんが声を掛けてくる。



「今日は良い牛が入ったからよ、持ってきな」


「良かったね坊、今日の夕飯が出来たぞ」




ありがたいけど、どうやって持って帰ろう。







貰ったブロック肉を袋に入れてもらい、俺達は商店街を後にした。

賑やかな商店街を抜けた先は、畑や民家が立ち並び道を進めど緑ばかりだ。周囲を見渡しながら道を歩いていると、時雨さんが山の方を見上げ声を掛けてきた。



「ほら坊。あそこの山の上に見えるのがここらで一番の名物『千年桜』だよ」



時雨さんに促されるまま上を見る。

…其処には巨大な桜の木が聳えていた。

他の木々に埋もれることなく、頭一つ跳び抜け咲く一本の桜。

何故俺は来る時気付かなかったんだろう…そう思う程にあの桜は美しく雄大に咲き誇っている。



「あそこは八津の神域だからね、誰かに言われない限り気付けないのさ」



神域?

時雨さんが不思議な事を言う。どういう事だろうと横を向くと、彼は俺の頭を撫でながら、静かに微笑み続ける。



「坊にも、いずれ分かる時が来る。千年桜も坊が来るのを楽しみに待っているからね」



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