過去を遡る4の件
第677話
「そろそろ、旅に出る?」
母さんが驚いた声で私を見る。
「はい。気づいたらここにもう1ヶ月近くお世話になっていますし、いつまでもここにお世話になる訳にはいきません」
「えぇ、そんなの嫌だよぉ」
「ずっといればいいじゃん」
2人は泣き始める。
「2人ともお姉ちゃんにも事情があるんだよ」
「ごめんね。私にも友達がいてさ。友達の所に帰らないと行けないのよ」
「……」
「また会えるよ」
「本当に?」
「ああ、大きくなったらね」
「なるほどね」
父さんは思わず笑う。
「出発は何時にするの?」
「明日にでも出ようかと思います」
「えぇー」
「だからさ、2人とも今日は沢山遊びましょう」
「うぅ」
「ほら、行くわよ」
私はちび2人を連れて行く。
「お父さん…」
「お母さんの言いたいことは分かるよ。出来ることならあの子を行かせたくない。でもあの子には未来がある。それを邪魔してはいけない」
「そうですね。それが私達…親が出来ることですよね」
「はぁはぁ」
やっぱりサイコパワーを使わないと体力が…
「はぁ、ねぇちゃん。やっぱり行っちゃうの?」
「ダメだよ、沙羅ちゃん。おねぇちゃんにも事情があるんだから」
やっぱり、由利の方がしっかりしてるな。
「じゃあ、2人にプレゼントをあげるよ」
「え、本当!!」
「先ずは由利」
私は髪飾りを渡す。
「わぁ、綺麗。本当にいいの」
「うん、これは私が妹に貰ったやつだ。大事にしてね」
「私は、私は」
小さい私はぴょんぴょんと飛んでいる。
「あんたはこれ」
私は腰に付けていた刀を渡す。
「えぇ!!」
「大丈夫、ちびのあんたにはまだ使えないし。そう簡単に刀は抜けないようになってるから」
「私には女の子らしいものはないの?」
「残念だけどありません。でもそいつはあんたと由利を護る大事な刀だ。大切に使うんだよ。それと刀を貰ったことは父さん、母さんには内緒ね」
流石に怒られるからな。
翌日
「それじゃあ、みなさん。ほんとうにお世話になりました」
私は頭を下げる。
「ああ、頑張ってね」
「気を付けるのよ」
「ねぇちゃん」
「おねぇちゃん」
子供達が私に抱きついてくる。
私は跪いて2人に話しかける。
「由利、あなたはとても優しい子だよ。これからもその心を持ち続けてね。沙羅は猪みたいな子だからあなたがしっかりと動きを見てあげて。あなたは強い子だから…沙羅と仲良くね」
「うん」
「沙羅、これから先どんなことがあっても強く生きなさい。そして由利とこれからできる仲間を大切にね。人間は1人では生きられないから甘える時は甘えるのよ。それと…もう少し女の子らしくしなさいな」
「うん、うん」
私は2人を抱き締める。
母さんは涙を耐えられなくなったのか顔を手で覆う。
「さ…僕達に何か出きることはないのか!!」
父さんが突然大きな声を出す。
父さんの気持ちは良くわかる。
私だってこの過去を変えたい。でも私は現在を未来を生きていくから。
「大丈夫です。家族仲良く暮らしてください。それが子供達の幸せになります」
「そうか…」
父さんは拳を強く握りしめる。
辛いだろうな。でも大変なのはこれからなんだ。
昔の私なら迷わず過去を変えただろう。
父さん、母さん…ごめんなさい。
私は過去を変えません。
私は後ろを振り向くことなくみんなのもとから旅立った。
「あれは」
遠くに親熊と小熊が仲良く歩いている。
「この間の熊か…」
私は微笑ましく熊を見送る。
「さてと、覚悟は決まった」
私は前を向いて歩いていく。
「……はぁぁぁ」
かっこよく旅立ったのは良いけど戻る手段分かってないじゃん。
「どうしよう。今さら父さん達のところに戻るわけにもいかないしなぁ」
(沙羅、沙羅)
私を呼ぶ声がどこからか聞こえてくる。
「この声は…」
ヒデリか
「よし、この声を辿って跳んでみるか」
今なら出来るさ、沙羅
私は声のもとに向かって空間転移をする。
「沙羅!!」
「ん…」
私が目を覚ますとヒデリが泣きそうな顔で私を見下ろしている。
「良かった、戻ってこれた…」
「何言ってるんだ?」
ヒデリの顔はまたくしゃくしゃになる。




