徹と四葉1の件
第626話
「はぁ、僕はどうすればいいんだ」
またやってしまった。
今回は許してもらえないだろうな。
どうせ未来が戻らないならもう…
「わっわっわーーーー。あぶなーい」
上空から声が聞こえる。
「えっ、な、なんだ」
ドシーン
く、苦しい。なんだこの柔らかい感触は…
「すいません、徹さん!!」
「む、むが」
「あ、早く退かないとですね」
「はぁはぁ。よ、四葉さん!!」
「どうも、徹さん」
四葉は頭をポリポリとかく。
「か、帰ったんじゃないんですか?」
「それが転移に失敗しまして」
「四葉さんでもそんなことあるんですね。大丈夫なんですか?」
「力を魔女っ子にあげすぎましたね。回復したら帰ります。しかし黙ってこっちに来てしまったので向こう側は混乱してるかも知れませんね」
うーむと四葉さんは顎に手をあてる。
「は、はぁ」
「それより、徹さんは1人でどうしたんですか?」
「え、あの実は」
「ほうほう、それでパーティーを追放されたのですね」
「うっ」
追放という言葉がぐさりと刺さる。
「それもこれも私のせいですね。沙羅の前で魔女っ子に力を与えるのを見せたせいで余計な期待を持たせてしまいましたね」
「やっぱり、四葉さんでも記憶を戻すことは出来ないんですね」
「まぁ、そうですね。でもあなたと沙羅が協力すれば可能かもしれません」
「そ、そうなんですか!!」
「可能性の話です。沙羅の力とあなたの想いが合わされば上手く行くかもという憶測になりますね」
「そうですか…」
「また期待させてしまいましたね。それにしてもこれからどうするんですか?」
「僕はエリスさんに捨てられてしまいました。もう還れと」
「ほうほう、では私の世界に来ませんか?」
「えっ、えええ」
「冗談ですよ」
四葉はにっこりと笑う。
マジマジと顔を見たことがなかったけど、エリスさんとはまた違う美しさを感じる。
「どうしました?」
「い、いえ。何も」
「こうやって顔を合わせてちゃんと話すのは初めてですね」
「そ、そうですね」
「それにしても沙羅も変わりましたね。私は嬉しいです」
「そんなに変わったんですか?」
「ええ、あの子は妹ちゃんのナイトさんだから誰にも心を許さない子でしたから
。それが今は皆さんの為に色々と考えて行動しているんですもの」
「た、確かに初めて会った時はなかなかでしたね」
「そうでしょう。あんなに仲間思いの子に育って私は嬉しいんです」
四葉さんは僕の手を握る。
「は、は、はい」
「あ、ごめんなさい。興奮してしまいました」
なんだろう、この人と話しているとペースが…
「さて、じゃあエリスさんに謝る方法を考えましょう」
「えっ!!」
「あなたは戻りたくないの?」
「いや、もう僕が居なくてもいいのかなって思い始めて」
「彼女のことはいいの?」
「未来は記憶が戻らないなら皆に新しく記憶を作ってもらえば…」
「そこにあなたは必要ないのかしら?」
「……」
「ふふ」
「何がおかしいんですか!!」
「お師匠様に叱られて落ち込んでいるんですね」
「それはそうですけど」
「あとは、誰も追いかけてこないことに拗ねてますね」
「うっ」
「それと何でも見透かそうとしている私のことを嫌ってますね」
「ううっ」
「私は人の心なんて見透かせませんよ。もしそういう態度を取っていたのなら申し訳ありません」
「そうなんですか?四葉さんは全てわかってるみたいで僕は…」
「私はあくまで経験談からお話しているだけです」
「経験談、四葉さんも昔他の世界に跳ばされたって言ってましたね」
「ええ、そうですね。私の場合は別の世界というよりはパラレルワールドでしたね。殆どが私の世界と一緒で同一人物もいましたね」
「何だか面白そうですね」
僕は思わず前のめりになる。
「そういう話しはお好きですか?」
四葉はにこりと笑う。
「はい、そういうの興味あります」
「そうですか、少し元気が出てきたようですね」
「それでどうなったんですか?」
「びっくりしたんですけど、そこの世界では私は悪者でしたよ。このサイコパワーを使って世界征服をしていたんです」
「ええっ!!」
「話が長くなるので食事でも取りながら話しましょうか?」
「あ、はい。じゃあ僕が食事の用意をします」
僕は食事セットを召喚する。
「へぇ、便利な力ですね。素晴らしいです」
「い、いや。そんな」
僕は思わず照れてしまう。
いかんいかん、僕はこの人に心を許してないんだ。
「じゃあ、頂きます」
「は、はい。僕も」
僕達は食事を始める。
この状況…いったいなんなんだろうか。




