おじさん城の件
第354話
「これは城と言っていいのか?」
目の前には一軒家のようなボロい建物が建っている。
「もしかしたら魔族に襲われたとか」
「ごみ屋敷みたいね」
「なんだ、外からゴチャゴチャと」
建物の中からかっぷくのいい男が出てきた。
「おい、ダイヤ。あいつがそうか」
「多分、前より太ってるけど」
「ん?あんた。ダイヤさんじゃねぇか?」
「あ、覚えててくれたんだー。そうだよダイヤだよ」
「10年前の夢を叶えたんだぜ。すげーだろ」
「お城を作るって夢だよね」
「そうだ、これからもっと大きくしようとしてるんだけど、段々やる気がなくなってな」
「ダメ人間じゃない」
「未来、聞こえるよ」
「でも、魔族は大丈夫なのー?」
「ああ、この辺はなぜか魔物が全然いなくてな。お陰でこれだけ作れたし今だに生きてるしな、ダイヤさん達の仲間はどうしたよ」
「うーん、まぁ色々あってバラバラになったよ。でもここにエリス様がいるよ」
「バカ、私はいいって」
「エリス様?このおちびちゃんがか」
「そうそう、色々あったんだよー」
「えっとすまんが、私はお前を覚えていない」
「まぁそうだろうな。あんたは俺とは一切話してないからな」
「それにしてもやはりここに一人でいるのは危険な気がするが」
「いいんだよ、10年前あんたらに助けて貰って俺はいつ死んでもいいって思ってるんだ。ただ夢を叶えるまでは死なねぇって決めて今までやってきたんだ」
「せっかく助けたんだから命を軽視するな」
エリスがピシャリと叱る。
「ああ、すまねぇ。あの時村のみんなが死んじまって俺だけが生きてることに罪悪感があったからよ」
「それなら、その村の人達の分も生きるべきですよ」
僕は思わず口を挟む。
「確かにな、ボウズの言う通りだ」
「坊主じゃないです。僕は徹です」
「すまなかった徹。でも俺はここに残るぜ」
「まぁ魔族もいないからいいか」
「とりあえず食事にしませんか?おじさんもお腹がすいてるでしょう?」
カエデがずいっと出てきた。
「あんたが食べたいだけじゃないの?」
「違いますよ!!おじさんのためです」
「じゃあ、今から用意するね」
僕は魔法で食事を出す。
「おお、これはすごいな」
「ダイヤ…」
「うん、わかってるよ」
「いやぁ、旨いなぁ。こんなに美味しい食べ物は久しぶりだ」
おじさんはカエデに負けないくらいガツガツと食べている。
「おい、そろそろ行くぞ」
「え、もう行くんですか?」
僕は思わず問い返す。
「ああ、彼がここでも大丈夫というなら止める理由もなかろう」
エリスは後ろを向いて歩き始めた。
「うぉぉぉおぉ」
おじさんがいきなり斧をエリスに向かって振りかざす。
「な!!」
僕は突然のことで追い付くことができなかった。
「へへん、甘い、甘い」
ダイヤが手にダイヤモンドをコーティングして斧を受け止める。
「な、なにぃ!!」
「とりゃああ」
ダイヤはおじさんの腹部に膝蹴りをお見舞いする。
「ちょっと、ちょっと何が起きてるの」
「わからない。でもあのおじさん…」
「ふふふふ、よくぞ俺の正体に気づいたな」
おじさんの背中から羽が生え、しっぽも生えてくる。そして顔面は醜い怪獣のような顔になっていく。
「そりゃそうだよ。10年前と全く姿が変わってないんだもん。君が魔物に襲われてないのは魔族と契約したからでしょー」
「よくぞ、そこまでわかったな。さすがはダイヤと言ったところか、だが俺の力はこんなもんじゃな…」
おじさんのお腹に大きな風穴が空いた。
「な、何」
「下郎め、お前と遊んでいる時間はない」
エリスはいつのまにかおじさんのお腹に一撃をくわえていた。
何の技を放ったのかわからない早さだった。
おじさん魔物は消滅していく。
「ふぅ、哀れなものよのぅ」
「もしかして2人とも気づいてたの?」
「ああ、最初からな。でもなかなか隙がなかったからな。のぅダイヤ」
「そうそう、騙してごめんねー。って言うかカエデもロミアも気づいてたでしょ」
「う、はい。でも何か作戦があると思ったのです」
「以下同文です」
「やっぱりみんな優秀だねぇ」
気づかなかった僕らの立場がないな。
「さぁ、また進んでいくぞ」
「了解でーす」
「なんじゃ、テンション下がってないか?」
「気にしないでくださーい」
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