サイボーグわんちゃん Part9
しばらくそうやってリュウヘイくんはアイになめられ続けていた。
お互い何もしゃべらなかった。近くの道路で車がクラクションを鳴らす音が聞こえた。
それからまたしばらくたって、リュウヘイくんがゆっくりと口を開いた。
「お父さんとお母さんが、ケンカしてんの」
ぼくは何も言えなかった。家にいるお母さんと仕事をしているお父さんの姿が思い浮かんだ。
お父さんはもう少ししたら仕事から帰ってくるから、それまでにぼくはアイといっしょに帰らないといけない。
「どうして?」
「知らない。でも、おれのことを言ってる」
リュウヘイくんのお父さんとお母さんがどんな人なのかは知らなかった。授業参観で教室の後ろにお母さんたちが並んでいるのを見たことあるけど、どれが誰のお母さんなのかはわからなかった。みんないい人そうだった。
リュウヘイくんのお母さんとお父さんがリュウヘイくんの悪口を言うなんて想像できなかったけど、そういうこともあるんだなと思った。
アイがくぅーん、と心細そうな声で鳴いた。
「……今言ったこと、誰にも言うなよ」
リュウヘイくんはそう言って立ち上がった。
「うん……」
「おれ、帰る」
リュウヘイくんはまるで何事もなかったかのように歩いていって、一度もこちらを振り返らなかった。