サイボーグわんちゃん Part3
「ただいまー」
家に帰った僕の上げた元気な声に、お母さんがびっくりしたような顔をしていた。
「おかえり……あれ、その犬は、どうしたの?」
「帰り道にいたんだ。ついてきたから、連れて帰ってきちゃった」
「今時野良犬? そんなわけないか……首輪、付けてるね。『N-01-AI』? 変な名前。どこかの家から逃げ出してきちゃったのかな」
「お母さん、この犬、うちで飼っちゃダメ?」
お母さんは難しそうな顔をした。
「どうかな。この犬の飼い主さんが困ってるかもしれないし……。でも、飼い主が出てくるまでの間なら、わたしはいいけどね。お父さんがなんていうかな」
僕は不安になって、犬と顔を見合わせた。そいつは僕の顔をじっと見つめていた。
「いいんじゃないか、飼っても」
仕事から帰ってきたお父さんは、犬を見て喜んでいるようだった。
「お父さんも昔犬を飼っていてな。おじいちゃんとおばあちゃんに助けられながら世話をしていたんだよ。楽しいぞ、何かを飼うってのは」
「ほんと!? よかった~」
僕の喜ぶ姿に反応したのか、犬も小さく「ワン!」と鳴いて、しっぽをぶんぶんと振り回した。
「だけど、きちんと約束事は守ってもらうからな。犬のお世話を俺やお母さんにまかせっきりにしないこと。飼い主の方が現れたら絶対にその人に返すこと。わかったな?」
「うん! わかった」
「しかし、小さな犬だなあ。こいつはシーズーか。俺の小さいころに飼っていた犬はダックスフントだった」
お父さんはかがんで、犬を下から抱きかかえようとした。が、お父さんは、しばらく抱きかかえようとした姿勢のままぴくりとも動かなくなった。
「どうしたの?」
お母さんの不思議そうな声に、お父さんが答える。
「重い……」
お父さんは、両脚をふんばってどうにか犬を床から持ち上げようとした。顔を真っ赤にしてうんうんと声を上げても、そいつの両脚は床から離れることはなかった。
「……パントマイムの練習でもしてるの?」
お母さんの呆れたような声。
「いやほんとに。マジで。重たい。持ち上げるの、無理」
「なにそれ……それは置いといて、犬の名前、どうするの? 元の名前があるにしても、この家で何て呼ぶか決めないと不便でしょ」
僕は犬のつけた首輪をじっと見つめた。『AI』の文字。この文字は見たことがある。たしか、英語のアルファベットっていうんだ。読み方も知っている。
「こいつの名前は、アイ。『AI』って首輪に書いてあるから、アイ」
「そう……アイ、か……いい、名前だな……」
お父さんはアイを持ち上げようとずっと頑張っているが、少しも浮く様子はない。
「少しの間だけど、家族が増えるわね。よろしくね、アイ」
お母さんの言葉が通じたのか、アイは体を揺らして「ワン!」といっそう元気よく鳴いた。それと同時に、お父さんの腰のあたりからぺきっと音が聞こえて、お父さんも鳴き声をあげた。とても悲しそうな鳴き声だった。