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サイボーグわんちゃん Part2

夕焼けに照らされて影法師が道の真ん中にまっすぐ伸びている。道の砂利を踏む音は僕一人ぶんの物しかない。とぼとぼと、重たい足を引きずるようにして、僕は学校から1キロくらいある自分の家に帰っている。


僕はどうしてこんなにダメダメなんだろう。今日の体育はドッジボールだった。僕はボールを避けるのだけはうまいから、避けて避けて、とうとう最後には僕一人になった。僕に向かって投げられたボール。僕は胸にボールを受けて、うっと胸を詰まらせた。ボールは僕の目の前に落ちた。外野の友達が一斉にため息をついた。


お昼の休み時間にはみんなで縄跳びをした。僕は嫌だったけれど、教室で本を読んでいたかったけど、みんなが参加しないといけないって先生が言うから、いやいや参加した。決まって、僕が飛ぶときになると縄が足に引っかかる。友達の中でも気の強い奴が、へたくそ、と怒って言う。僕のことを指さして笑うヤツもいる。僕は恥ずかしくなって、泣きそうになって、でも先生はやめさせてくれそうになかったから、トイレ、といってみんなから離れた。休み時間が終わって授業の時間になったので教室に戻った。教室に戻った時のみんなの視線が嫌だった。


午後の算数の授業で、立って問題の答えを言うように先生が言った。問題の答えはわかっていた。だけれども、椅子から立ち上がった瞬間、頭の中が真っ白になって、何も言えなくなってしまった。そのまましばらく黙ったまま立っていると、先生が「白瀬くんは、この問題わかんなかったのかな? きちんと授業聞かないとだめだよ」といって僕に座るように言った。くすくすと何人かが笑う声が聞こえてきた。


なんで僕はこんなにできないんだろう。どうして僕はこんなに弱いんだろう。だれも答えてくれる人はいない。僕はもう学校に行くのは嫌だ。明日から体が痛いとお母さんに言って、学校をお休みさせてもらおうかな。


「……あれ?」

とぼとぼと川沿いの細い砂利道を歩く僕の前を、ひょこひょこと何かが横切った。道の横は背の高い草が生えている。横切った何かを探して草を少しかきわけると、そこに小さな犬がいた。犬は草と土の間を熱心に嗅ぎまわり、落ち着きなく地面を掘り返したり、体をかいたり、ぐるるといううなり声を上げたりしていた。犬種はわからない。だけど、丸っこくて、毛が長くて、かわいらしい見た目をしていた。

そいつは後ろに立った僕に気がつくと、僕の靴の臭いをかいできた。しばらくそいつは両足に鼻こすりつけると、僕の顔を見て「ワン!」と元気に鳴いた。お座りの格好をして、しっぽをいっぱい振って、とてもかわいかった。

「どこから来たの?」

犬は答えるはずもない。犬には首輪が付いている。『N-01-AI』と文字が書かれていた。これがこの犬の名前なんだろうか? 変な名前。

「おいで」

かがんで手をだして呼びかけてみる。犬に僕の言葉がわかるはずもないけど、伸ばした手に反応したのか、そいつは僕の手をペロペロとなめ始めた。くすぐったい。僕は両腕を伸ばしてそいつの体の下にやって、抱きかかえようとした。が、できない。びくともしない。とても重い。ああ、僕はこんな小さな犬を持ち上げられる力もないのか。気持ちがまた重たくなって、僕は犬を持ち上げるのは諦めて、元の道に戻ってまたとぼとぼと家に帰ろうとした。抱えられるのなら、家に連れて帰ろうかと思ったのに。お母さんとお父さんが許してくれないだろうし、これでよかったのかも……。


「ワン!」

元気な鳴き声が僕のすぐ後ろで聞こえた。振り返ると、犬がついてきている。僕が少し歩くと、その後ろをそいつがついてくる。少し走って振り返ると、そいつが短い足で一生懸命に走ってきているのが見えた。

僕はうれしくなって、いちもくさんに家に向かって走った。砂利道に伸びた影が、1人と1匹になった。


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