第五話 異星人と禁忌魔法
「おい、なんだよこれ…」
家を飛び出した俺の目に映ったのは、悲惨な光景だった。
燃え盛る家や逃げ回る人々、そしてそれを追うように魔法を乱発する異星人たち。
「ステラ、何が起きてるんだ…?」
「星間戦争よ。あいつらはここを…リテラを崩壊させようとしてるのよ」
「止めなきゃ…」
俺は考えるより先に動き出していた。つい数秒前に後悔したばかりなのに、俺も学習しないな。
「オラオラ、逃げろ〜叫べ喚け〜ギャハハハハ!」
「やめろ!」
異星人の目の前に立つ俺の足は生まれたての子鹿のように震えていた。
「なんだお前、何の用だ」
「いますぐここから立ち去れ。じゃないと…」
「じゃないと、なんだ?何か面白いことでもしてくれんのか?」
声が出ない、体が動かない、俺は完全に怖気付いてしまった。
「ソラ、屈んでっ!」
「へ?」
ステラの声に俺はとっさに反応してその場に屈んだ。
「混沌を統べし鉄槌よ、その力を我に授けたまえ…【バレットフィスト】!」
そう唱えた瞬間ステラの腕が光り、まるでロケットパンチのようにその光がまっすぐに異星人を貫いた。
確かに貫いたはずだが、傷ひとつついていない。だが確かにダメージは与えているようだった。
「テメェ…何しやがった…!?」
「この世の理に背きし者よ、その身を我に従えたまえ…【マリオネットアーミー】!」
今度はステラの指から糸のようなものが出てきたかと思うと、その糸は異星人の体に接続された。ステラが指を動かすとその動きに合わせて異星人の体が反応する。
「くそ、なんだこれ…体が勝手に…!?」
「どう足掻いてもその糸は切れないわよ。おとなしく撤退してくれたら解放するわ」
「わ、わかった、わかったからなんとかしてくれ…!」
涙目で懇願する異星人を見てステラは魔法を解除した。しかしその瞬間異星人がステラに襲い掛かった。
「バカが、そうおとなしく従うわけ…」
「バカはそっちだよ。【マリオネットバインド】…」
ステラの背後から声が聞こえた。スバルが詠唱なしで魔法を使ったようで、ステラの魔法と同じように糸が出てきた。さっきと違うのはその糸が異星人にまとわりついていることだった。
「このクソガキ、離しやがれ…!」
「お姉ちゃん、いいよね」
スバルはそういうと糸が出ていない方の手で違う魔法を発動させた。
「大地を焦がす怒りよ、かの命の一片を焼き尽くせ。【バーンシナプス】…」
「スバル、その魔法は…!」
魔法が発動した瞬間、異星人はその場に跪いてしまった。さながら操り人形の糸が切れたように。
「…死んだ、のか?」
「まさか、この程度じゃ死なないよ。むしろ死ぬよりつらいと思うよ」
「死ぬよりつらいって…何をしたんだ?」
「私が説明するわ。さっきの魔法はね、相手の神経を焼き切るの。そうすることで動けなくする…死ぬまで、ね」
確かに、死ぬまで動けないのは考え方によっては死ぬよりもつらいかもしれない。俺は想像しただけで寒気がした。
「それにしても騎士団は何やってるんだ…こういう時のための騎士団なんじゃないのか?」
「多分もうすぐ来ると思うわよ、あの人たちは事が起こってからしか動かないから…」
最初の爆発音から結構な時間が経っていた。今もいろんな場所で爆発が起きている。
「くそ…こうなったらとりあえず動くしかないだろ…!」
俺は戦うことに決めた。
爆発が起きた場所に駆けつけると、そこでは異星人との戦闘が行われていた。
「ステラ、加勢するぞ」
「待って、ソラは戦えるの?」
さっきいくつかの魔法の詠唱を聞いたが、それには法則があった。どうやら英単語の組み合わせみたいだし、それっぽい単語を組み合わせれば魔法が使えるだろう。
「大丈夫、やってみるさ」
俺は攻撃に使えそうな英単語を必死に思い出そうとした。その結果出てきたのは…
「一か八か…ファイヤーアタック!!」
・・・・・
「あ、あれ…?」
「なんだお前たち、邪魔しにきたのか?」
魔法は発動しなかったが、異星人の注目を集めることには成功したようだ。
「なんとも無様な姿だけど、今は感謝しておくよ。【アイスブラスト】」
スバルはまた詠唱無しで魔法を唱えた。すると異星人たちは一瞬にして氷漬けになった。そしてスバルが手を握ると氷は異星人ごと弾けた。
「スバル…お前何者なんだ…?」
「僕はただの魔法使いだよ。お姉ちゃんよりちょっと強いだけのね」
「わ、私だって本気出せばあんな魔法くらい…!」
ステラが頬を膨らませてそういった。かわいい。
「お姉ちゃん、ソラ、まだ終わってないよ」
スバルは遠くを見ていた。その先から異星人の群勢が押し寄せていた。
「先の戦闘による生存者をかき集めても十人もいないな…こりゃ多勢に無勢ってやつだな」
「ソラは下がっててもいいよ。なんなら無様に泣きながら逃げてもいいんだよ」
「そんなことするわけないだろっ!」
相変わらずスバルは辛辣な言葉を投げかけてくる。
「ソラ、本当に無理しなくていいのよ。私たちだけでもなんとかできると思うから。ソラはまだ戦闘慣れしてないんだから…」
「そう言われると…でも俺だって戦いたいんだ…!」
「わかった。でも、無理だけは絶対にしないって約束して」
「あぁ、約束する」
とは言ったものの、ついさっき失敗したばかりで怖気付いてるのは事実だし、正直俺には勝算がない。だがこうなってしまったらやるしかない。
そうこうしているうちに群衆はすぐそこまで近づいていた。
「これはこれはリテラの皆さん、揃いも揃ってどうしたんですかな?」
先頭を歩いていた男がシニカルな笑顔で話しかけてきた。
「お前たちを倒す。そして争いを終わらせる…!」
「笑わせてくれるじゃないか。でもね、終わるのはお前たちなんだよ」
その男は詠唱もなく、名を出すこともなく魔法を使った。何も口にしてないのに魔法が使われたのがなぜわかったのか、この地割れを見れば一目瞭然だ。
「訂正するよ。終わるのはこの惑星だ」
その言葉は冗談でも脅しでもない、今ここで止めないと本当にそうなってしまう。
「光と闇が重なりし時、その力を我に…【ホーリーナイトメア】…!」
俺は無意識に詠唱を唱えた。すると地割れは止まり、群勢は次々に倒れていった。
「これ…俺がやったのか…?」
「やっぱり、ソラはただ者じゃない…」
「なぁステラ、さっきの魔法なんだったんだ…?」
自分の口から発した魔法なのに、こんな質問をするのはおかしな話だってわかってるけど、聞かずにはいられなかった。
「さっきのはね…超上級魔法なの…それも、禁忌魔法に指定されてる魔法の一つ…なの…」
「禁忌って…そんな危険な魔法を使ったのか、俺…」
途端に恐怖を感じた。知らなかったとはいえ、危険な魔法を躊躇いもなく放ってしまった自分に対して。