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第三話 存在する非存在

「とりあえずここで待っていてくれ」

「こ、ここでって…」

 ガイルに案内された場所は鉄格子に囲まれた檻がたくさん置いてある薄暗い部屋だった。

 俺はその鉄格子の中に入れられたわけだ。

「君のことを色々聞く前に、少し用事を済ませてくる」

「あ、あぁ…」


 特に何かすることもなく、ただイタズラに時が過ぎていく。

 体感で二十分ほど経過しただろうか、違う檻から声が聞こえてきた。

「お前はどんな罪を犯したんだ?」

「えっ、いや…俺はただ連れてこられただけで…ってか、誰?」

 俺は声のする方を見てしまったことを後悔した。そこにいたのは赤い目を持ち、鋭い牙がキラリと光る虎の獣人がいた。

「た、食べられる…」

「そんな怯えなくたって、ヒュメルなんか食ったりしねぇよ。そんで、お前は何をしたんだ?」

「俺は何もしてない、ただ連れてこられただけだ。それよりヒュメルってなんだ?」

 ここにきて初めて聞いた言葉だ。

「んなことも知らんのか。さては異星人だな?ヒュメルってのはお前らの種族のことだ。ちなみに俺の種族はティグってんだ。あ、名前はライガ、よろしくな」

 なんか勝手に自己紹介された。それにしても、ステラといいこのライガといい、なんで異星人なんてあっさり出てくるんだよ。現実離れしすぎだろ。いや、そもそもこの世界自体が現実離れしてるか。

「ライガ、ね…俺はソラだ」


 俺も自己紹介をして、気になっていたことを口にした。

「ところで、ライガはどうしてここにいるんだ?」

「ちょっと狩りをしていてな、うっかり禁止区域に入っちまったんだ」

「禁止区域?」

 もしかして、禁猟区とかそういうやつかな?

「リテラには何ヶ所か禁止区域があるんだ。そこは特定の権限を持つやつしか入れなくなっていて、もし入ったら俺のように捕まるってわけ。お前も気をつけろよ?」

「気をつけろったって、その禁止区域ってのがどこかわからないんじゃ気をつけようが無いんじゃ…」

「そう、その通りなんだよ。肝心の禁止区域ってのがどこなのか、印一つ付いちゃいねぇ。そんな場所に入るななんて言われてもどうしようもないよな?」

「た、確かに…」

 そんな理不尽な掟があっていいのか?なんて疑問はきっと今まで先人たちが嫌という程思ってきたことだろうから、俺の口からは言わないことにしよう。


 ライガとしばらく話していると、部屋の扉が開いてガイルが入ってきた。

「待たせたな、異星の民よ。そのまま聞いてくれ」

「俺にはソラって名前があるんだ、異星の民なんて呼び方はやめてほしい」

「そうか、それは失礼した。ソラ氏、君はどこから来たんだ?」

 まさかここで尋問が始まるとは思ってなかった。

「えっと…地球ってとこから来たんだけど…」

「ちきゅう…聞いたことのない名前だな。どこにあるんだ?」

「どこにって言われてもなぁ。俺の知識じゃ太陽系第三惑星としか言いようがないな」

 まぁ正確には色々あるんだろうけど、あいにく俺は宇宙の話には興味がなかった。宇宙と書いてソラと読む名前のくせにな。

 しかし、俺の回答にガイルはキョトンとしていた。

「たいようけい…よくわからんが、ゾネル属惑星みたいなものか。なんだか難しい話になってきたな」

「それで、俺はここから出れるのか?」

「あぁ、どうやら敵対惑星から来たわけじゃないようだからな、すまなかった」

「それじゃ…!」

 俺は完全に帰れると思っていた。

「だがすぐに解放するわけにもいかないんだ。君にはあるテストを受けてもらいたい」

「おい騎士様よ、それってもしかして…」

「えっ、なになに?そのテストってなんかやばいの?」

 話についていけない。




 俺と、ついでにライガもなぜか一緒に広い部屋に連れてこられた。

「ここは…?」

「いわゆる闘技場だ。ここで君にテストを受けてもらう」

「そのテストって何をするんだ?」

「これを持ってくれ」

 ガイルに手渡されたのは分厚い本だった。

 表紙には魔法陣が描かれていて、この惑星に来て間もない俺でもなんとなくこれがなんなのか察した。

「これって、いわゆる魔道書ってやつだよな?確かステラが言ってた気が…」

「なんだ知っているのか、ならば話が早い。一ページ目に書かれている魔術詠唱を唱えてみろ」

「そんなこと言われても、文字読めな…」

 普通に読めた。見たことない文字なはずなのに、スラスラ読めてしまう。


「澄み渡る生命の源よ、その身を結びこの世に顕現せよ。【氷の城(グラースシャトー)】」

 詠唱を唱えると、床に大きな魔法陣が現れた。

「こ、これは…」

 そこから現れたのは背丈を大きく超えるほどの氷の柱だった。

「まずい、このままでは部屋全体が氷漬けになってしまう…君、魔道書をこちらに!」

「は、はいっ!」

 俺は手に持っていた魔道書をガイルにめがけて投げた。

「燃え(たぎ)る第一の力よ、真の力を今ここに顕現せよ。【爆炎の渦(ブリュムトゥルビヨン)】」

 魔道書を受け取ったガイルはそれを開くことなく詠唱を唱えた。魔法陣が現れ、そこから炎の渦が登って行く。

「すごい、これが騎士団長の力…」

 炎の渦に包まれた氷はたちまち溶けて行く。しかし溶けることで発生した水が新たな氷を生み出していたちごっこになっていた。

「おいおい、これじゃラチがあかないじゃねぇか。いっそ床を壊して魔法陣を崩すしかないぞ」

「床を壊す…だったら俺に任せろ。【ライトニングDD】!」

 俺は岩を砕いたあの魔法を発動させた。室内にも関わらず稲妻が発生するなんて本当に凄いな、魔法。


 稲妻はまっすぐに落ちて床にヒビを入れた。すると魔法陣が崩れて氷の発生が止まったようだ。

「よかった…」

「ソラ、君は一体何者なんだ」

「えっ、いやだから俺は地球人で…」

 ガイルの表情が明らかに変わった。

「君を拘束させてもらう。ここから出すわけにはいかなくなった」

「なんで!?」

「そりゃそうだわな…」

 ライガも呆れたような、納得したような顔をしている。

 俺は原因がわからず、ただその場で呆然と立ち尽くすしかなかった。




 そしてまた鉄格子の部屋(ここ)だ。

「なぁ、俺はなんでまたここにいるんだ?」

「ソラ、お前は()()()()()()を、それも騎士団長様の目の前で見せつけてしまったんだ。それに敵意がなくとも騎士団としては脅威なわけだ」

「そのありえないってのはなんのことだ?ステラ…ここに来て初めて出会った子も俺の魔法を見て驚いてたけど」

 最初から中級魔法が使えたことがチートだという自覚はあるけど、それは才能があったということで済む話なはずだし、思い当たる節がない。

「あのな、ソラ。この世に魔法と魔術のどちらも使えるやつなんて存在しないんだ」

「存在しないって…魔法も魔術も、それなりのコツと知識があれば使えるんじゃないのか?」

「馬鹿言うな、確かに魔術だけならそれで使えるかもしれんが、それは魔法が使えないやつだけだ。魔法が使えるということは魔扉(まひ)…魔力を使うための器官を持っているんだが、魔扉を持つものは魔術が使えない、そもそも魔道書を手に取れないんだ。一種の呪いみたいなもんだな。それなのに、お前は魔法を使い魔道書を手にした。あとはわかるな?」

 なるほど、そう言われたら納得だ。

 目に見えないオバケを怖がる感覚に似て…ないか。


 それにしても、異世界転生ってもっと優遇されるはずなんだけどな…あ、ここ異世界じゃなくて異星だったわ。

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