第二話 チート発覚
異星・リテラに来てから一週間、俺は囚われていた。
なぜ囚われたのか、いつまで囚われているのか、全く見当がつかない。
というのも、遡ること一週間。俺がこの星に来てすぐのことである。
「いやぁ、それにしても、地球とほぼ同じ環境の星があるなんて驚きだよ。水も酸素も、動物だって…いや、姿はどうも違うみたいだけど…」
牛に見えるけどサイズ感が猫のそれだし、鳥っぽいけどただ鳥の仮面つけてるだけに見えるし、犬の見た目で象みたいにでかいし…
「まさに、異世界って感じだな…いや、異星界か。待てよ、通説では異世界転生したらチート級の能力が身についているはず…」
しかし、そういう能力っていうのは何かイベントが起きてからじゃないとわからないのもよくある話だし、今は待つとしよう。
「さっきから独り言がうるさいのだけど、なんの話をしているの?」
「いや、こっちの話だ。それで、俺はこれから何をしたらいいんだ?」
俺はステラの家でお茶をすすっていたわけだが、これから何をして過ごすか、どう生きていけばいいのかわからない、ということでステラに助言を求めてみた。
「何をって…そうね、とりあえず…戦闘経験は?」
「戦闘…ないけど、どうして?」
ポカンとする、とはこういうことなのだろう。多分今の俺は最高にアホづらだ。
そんな俺の顔を見て、ステラはニヤリと笑った。
「真っ白の紙に絵の具を垂らすとどうなるか、わかる?」
「そんなの、紙に絵の具の色がつくに決まってるだろ?」
「そう、その通り。ってことで、行こっか」
ステラはそう言って立ち上がり、俺の手を引いた。
「ちょ、ちょっと待って…まだお茶が…」
連れてこられたのは、周りに何もない、特徴といえば所々地面に穴が空いていたり、そこらに転がる岩石がボロボロだったり、まるで争いでも起こったかのような場所であるということだ。
「ここは…?」
「演習場よ。と言っても、魔法・魔術専用のだけどね。見たところ、ソラには魔法の才能があるみたいだからその力を見せて欲しくてね」
「待て待て、俺は魔法なんて使えないぞ?それに、魔法と魔術って一緒じゃないのか?」
「何言ってるの、全然違うわよ。魔術は魔道書における術式の一つで、大気中の魔成を使って技を繰り出すの。知識さえあればどんな技も使えるし、体力次第では無限に使えるの。それに対して、魔法は体内の魔力を消費して発動する技で、魔力が尽きれば魔法は使えないし、下手したら死に至ることもあるの。その分、魔術より強力な術を使えたりするのよ」
一度にいろんな情報が頭の中に入ってきてパンクしそうだ。しかし俺は大事なことを聞き逃しはしなかった。
「待て、今死に至るって…」
「えぇ、そうよ。魔力は私たちが生きるために必要な、いわば生命力そのものだからね。それがカラになれば死んでしまうのも道理でしょ?」
確かに、生命力が無くなれば死ぬのは当たり前だ。
「じゃあ、さっき俺に魔法の才能があるって言ったのは?」
「私珍しい能力を持っていてね、相手の魔力が読めるの。でもあなたの魔力は読めなかったのよ。魔力がない人なんていないし、それでも読めないってことは計り知れないほどの魔力を秘めてるとしか思えないのよ」
「なるほど…って簡単に納得できないんだが…?」
それもそうだ。魔法や魔術なんてアニメの世界の話だし、使ったことも見たこともない。そんなものに才能があるなんて言われても、使い方すらわからない。
「とりあえず、百聞は一見に如かず。私が魔法を使ってみせるから、少し離れて見ていて」
そう言って、両手を前に構えた。その瞬間ステラの体が光り出した。
「混沌の闇を照らす光よ、その力を我に授けたまえ…【ライトニングDD】!!」
ステラは詠唱を唱えた。するとどこからともなく稲妻が落ちてきて目の前の大きな岩を打ち砕いた。
「す、すごい…すごいんだけど…耳が…」
稲妻の音なのか、岩を砕いた音なのか、とにかく物凄い音がして俺の耳はキーンという音が鳴っていた。
「ごめん、もう少し軽い技にしておくべきだったよね。今のは中級魔法のライトニングDD。中級だから魔法初心者のソラにはまだ使えないと思うけど…」
「えっと、こうやって構えて…」
俺はステラの真似をして構えた。
「ねぇ、何して…」
「ふぅ…詠唱省略、【ライトニングDD】!!」
「なっ…!?」
どうやら成功したらしい。ステラが稲妻を落とした場所に、俺も同じように稲妻を落とした。
「ちょっと…中級魔法を、それも詠唱も唱えずに使うなんて…あなた、本当に何者なの?」
「いや、だから俺は星野宇宙だって…」
「そうじゃなくて!」
まぁそういう反応だろう。しかし、まさか本当にチート級の能力が備わっているとは思っていなかった。
ところで、なぜ俺が囚われているのか気になっている人も少なくないだろう。
そう、この後事件は起こった。
ステラの家に帰ると、家の前に鎧を身にまとった男がいた。
「えっと、私の家に何かご用ですか?」
「失礼、私はリテラ中央騎士団、その団長ガイルと申す。ここに怪しい人物がいると聞いたのだが…」
やっべぇ、目が合った。
「君がその怪しい人物とお見受けした。すまないが同行してもらえるだろうか?」
「それって拒否したらどうなるんだ?」
「拒否権はない。抵抗した場合最悪手足がなくなると考えてもらおう」
だったら最初から聞くなっての。
「いいだろう、連れて行け」
「ちょっと、ソラ!?」
「大丈夫、俺は悪いことなんてしてないんだから、恐れることはない」
俺は黙ってガイルについて行った。