狐の弐
今日も清々しい朝じゃのう。こんな日は旦那様と散歩なぞと洒落込むかのぅ。のぅ、旦那さm…。
「どっ、どうしたのじゃっ!旦那様っ!」
「…あぁ…、タマ…。おはよう…。」
「いやっ、おはようじゃっ、無いのじゃっ!凄い熱じゃっ!」
「…か…ぜ…かな…ゴホッ、ゴホッ。」
「しっ、しっかりしてたもぉっ!旦那様ぁっ!」
朝の清々しい気分なぞ当の昔に那由多の彼方へとスッ飛び、旦那様への心配が妾を支配して行く…。
「取り敢えず、医者に行ってくるわぁ…」
「妾も一緒に!」
「…あー…、流石に一人でも大丈夫だから。ね。」
そう言いながら優しく撫でてくれる旦那様…。
『じゃ、行ってくる…』と言って出掛けて行ったが、妾の心は落ち着かない…。
どの位時間が経ったのか、漸く旦那様が帰宅してくれた。
「旦那様!無事かや!」
「ただいまぁ。無事、無事。医者行って、無事じゃ無かったら、それこそ大事だ。」
「兎に角、休んでたも…。」
布団に入るや直ぐに寝息を立て始める旦那様。
「うぅ…。妾はなんと無力なのか…。」
何が傾国の美女か!何が最強の妖狐か!最愛の旦那様が苦しんでいる時に何も出来ず、ただ見ている事しか出来んではないかっ!
そう思うと自分が情け無くなり、自然と涙が溢れて来る…。
「ん… タマ…?」
「…旦那…様…。…や…じゃ…」
「どうした?何、泣いて…」
「嫌じゃっ!」
「?タマ?」
「嫌じゃっ!嫌じゃっ!妾を独りにしないでたもれっ!」
「タマ…」
「もう独りは嫌じゃっ!たった独りで永い時間を過ごす事など、今の妾にはもう無理じゃっ!旦那様の温もりを知ってしまった妾にはっ!」
泣いた…。それはもう、童が寂しさのあまり母親に縋る様に…。
ここまで泣いたのは2000年以上生きて来て初めての事じゃった…。
それだけ妾の中で旦那様の占める割合が大きい証拠じゃった。
その時、不意に玄関のチャイムが鳴りドアを叩く音が…。
『おかしいわね?今日、この時間にって言っておいたんだけど…?』
この声はっ!?
「旦那様!少し待っているのじゃ!」
旦那様のきょとんとした顔を横目に直ぐ様玄関へっ。
「お義母上!」
「タァマちゃん!来たわよぉって、どうしたのっ!?そんなに泣いて!」
「旦那様をっ!旦那様を助けてたもっ!」
『えっ!?ちょっ!?』と、訳が解っていないお義母上を急いで寝室へ連れて行く。
「旦那様っ!お義母上が来てくれたのじゃっ!」
「母さん…。」
「あー、昴ったら風邪引いたのね。だからか…。お医者さんには行ったの?」
「さっきね。」
「そう。なら…、タマちゃん。」
「はいっ、お義母上っ。」
『お粥を食べさせてあげて。』との、指示で妾は直ぐ様台所に。
「出来たのじゃ!さぁっ!旦那様!」
とき卵とネギを散らしただけのシンプルなお粥をお盆に乗せ、旦那様の前へ。
「あー。有難う、タマ。」
「食べたら、お薬飲んでさっさと寝なさい。」
「旦那様…。」
「今日1日寝てれば直ぐに治るわ。大丈夫よ。」
そう言いながらお義母上は優しく落ち着かせてくれた。
漸く妾が落ち着くと、『これ旅行のおみやげね。』と、紙袋を渡してきた。
「さて、じゃ私はこれで。」
「もう行ってしまわれるのかやっ!?」
「ごめんねぇ、タマちゃん。次はもっとゆっくり来るから、ね?」
「何のおもてなしも出来ず、申し訳無いのじゃ…。」
「気にしないの。そんな事。また来るから。ね?」
しょんぼり落ち込む妾に優しく諭して、お義母上は帰って行った。
寝室へ様子を見に行くと、旦那様は既に夢の中のようじゃの。
「…旦那様…。今の妾に出来る事と言えば、もうこの位しか残っていないのじゃ…。」
そう呟き、妾は…旦那様の…。
翌日
「…ふ…っ…んー…っ。ん…?あぁ…。タマ、添い寝、してくれたんだ…。」
布団の中には
丸まってる九尾の狐が静かに寝息を立てて眠っていた…。
おはよう…。タマモ…。
タマモ感覚だと、ただの風邪でも死ぬ危険が有る病…。