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狐の壱

 

 茹だる様な8月の暑さが9月に入ると急に顔を引っ込め、少し肌寒く感じる朝、妾は、旦那様の布団に潜り込む。

 「(うむ…。至福、至福。)」

 潜り込んだ後も我が最愛の伴侶は静かに寝息を立てている。

 暫く微睡んでいると、けたたましく目覚ましのアラームが鳴り響く。

 「う…ん…。…時間…。…タマ…、おはよ…。」

 「おはようなのじゃ、旦那様。早く起きぬと、遅れるぞよ。」

 まだ完全に覚醒しておらず、少しぼーっとしている旦那様を急かす。

 「朝の用意は既に出来ておるぞよ。」

 そう言いながら、妾も一緒に動き出し、朝食を温め直す。

 

 「じゃ、行ってくる。」

 「行ってらっしゃいませ、旦那様。」

 朝食を終え、仕事に向かう旦那様をお見送り。

 ついでに[行って来ますのチュウ]を期待したが、今日はお預けじゃった…。残念。

 但し、[ただいまのチュウ]に期待しておるぞよ。

 妖力で食事の片付けをしつつ、洗濯と掃除。

 「あぁ…。妾が愛して止まぬ旦那様の匂い…。」

 洗濯機に入れる前の、妾だけに許された至高の時間。

 十分に堪能したら、ちょっと…、いや…、少し…、いやいや…、かなり名残り惜しいが洗濯開始。

 「さて、洗濯が終わる前に部屋の掃除じゃの。」

 とは言え、掃除するのは寝室だけじゃが。

 「何時も思うが、目覚まし時計と言うのは無粋な存在じゃな。妾の至福の時間を邪魔しよる。かと言って、旦那様を遅刻させる訳にはいかぬしのぅ…。うぅむ…。」

 何か良い方法は無いものか…。旦那様も『この音でないと無理。』と言っておったしのぅ…。

 悔しいが認めざるを得まいっ。目覚まし時計、いつの日か貴様の存在に取って代わって見せようぞ!覚悟しておれ!

 目覚まし時計を一瞥しべっどめいきんぐ。

 先ずは旦那様の匂いを思い切り吸い込み、シーツを交換する前に消臭…したくない…が、気持ち良く就寝する為には涙を飲んでスプレーを全体に万遍なく吹き付ける。

 乾いたのを確認し、シーツを交換、整えて完了。

 「うむ。洗濯が終わる前にこちらは完了じゃな。流石は妾。出来る妖狐はやはり違うのぅ。」

 自己満足に浸りつつ、洗濯物を綺麗に干し終わると、丁度お昼時。

 「…昼…か…。妖力の補給をせんとな。」

 色々思案した結果、昼餉はホットケーキに決まり。

 「やはり甘い物の方が効率が良いのぅ。あの時代では甘い物なんぞ数える程しか口に出来なんだからのぅ…。その点はこの時代様様じゃな。」

 昼を摂り終え、後片付けを済まし空間を越えてやって来たのは、四方を鳥居で囲まれた場所。

 其処は妾の妖力の大部分が封印されている場所。

 旦那様の実家であり、その昔、妾を封印した導師が開いた神社の地下。

 [要石の室]。それがこの場所の名前。

 妾は現界してから毎日、結界の確認を日課としておる。

 「ふむ…。今日も異常無しじゃな。結構結構。」

 「毎日、確認に来るとは精が出るのぉ。玉藻。」

 「これはこれは、お婆殿。」

 そう、反しながら声の主の方へ振り返る。

 「妾は今の生活を壊したくは無いのじゃ。強過ぎる力は災いの元じゃからのぅ。妾には旦那様の方が大事じゃからな。」

 「その様子だと、孫とは上手く行ってるみたいだね。」

 「当然じゃ。」

 「良し良し。安心したよ。」

 『ま、孫を宜しくのぅ。』と言いつつ、お婆殿は姿を消す。

 「流石はあの導師の子孫じゃな。この時代で転移の使い手なぞ、あの御仁のみじゃろうな…。さて、妾も戻るかのぅ。」

 空間を渡り自宅に戻ると、もう時刻は3時を回っていた。

 テレビを見つつ夕餉の献立を思案する。

 「今日は、何にするかのぅ。昨日はオムライスだったからのぅ。」

 冷蔵庫の中を見つつ思案する。

 「ふむ…。ネギと肉の細切れが余っておるの。これと昨日の卵でスープが作れるのぅ。すると主菜は…」

 などと考えつつ、足り無い食材を買いに出掛ける。

 変化の術を使い商店街へ。

 道行く顔見知りや、店の主に軽く挨拶を交わしつつ買い物を済ませると、そろそろ旦那様の帰宅時間が迫って来ていた。

 「さて、少々、急がんとな。」

 夕餉の仕度と風呂の用意を妖力使い同時に進める。

 そうこうしている内に玄関の開く音と共に旦那様の『ただいまぁ〜』の声がし、急いでお出迎え。

 「お帰りなさいませ、旦那様。」

 「うん。ただいま、タマ。」

 と言うや否や、旦那様が妾の頬にチュッとしてくれたぞよ〜。

 「(至福、至福。)今日もお疲れ様なのじゃ。今、夕餉の用意が出来るのじゃ。着替えたら座って待っててくりゃれ。」

 着席のタイミングを見計らい料理を食卓へ並べる。

 「さぁ、召し上がれなのじゃ。」

 「戴きます。」

 旦那様との他愛の無い会話も妾の心を満たしてくれる。

 あの時代の者達が今の妾を見たらなんと言うかのぅ…。

 

 「ご馳走さまでした。」

 「お粗末様でしたのじゃ。」

 食事を終え、後片付けを済ませ一休み。この時の旦那様は何時も妾の尻尾の1本を膝の上に乗せる。何か旦那様にとっては無くてはならないモノらしい。

 旦那様に必要とされているのならば拒むと言う選択肢ははじめから無い。

 

 その後、2人で風呂に入り、ここに書くと削除されてしまう様な事をしつつ十分に温まり、寝室へ。

 色々と書いたらダメな事をしながら、今日も無事に終わるのであった…。

 

 おやすみなさいませ、旦那様…。

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