授業に集中できなくて
雪のひとひらが、宙を舞うようにして地上に降りてくる。不規則な大気の流れに乗ってアスファルトの表面にくっついた雪のつぶては、ゆっくりと溶けて地面に黒い染みを残した。今年の初雪を世界で最初に観測したのは多分僕だと思った。
その後にも次々に雪のつぶてが続いて、地面を濡らしていく。積もらないだろうと思っていたけれど、雪は徐々に強さを増し、五限の授業が半分終わる頃には、もう中庭の景色は一面真っ白に染まっていた。歩道と花壇の形は連続的に続いて、なめらかな白い曲面が中庭全部を覆っているように見えた。
雪の降り続く様子は見ていて飽きない。際限なく降り続く雪の粒ひとつひとつの形、軌道、結合は、どれひとつとっても同じになることはない。
雨の日もそうだ。窓ガラス表面の水滴が、ほかの雨粒と結合して流れていく。かと思ったら、他の雨粒をたくさん取り込んだ水滴が、巨大な隕石みたいに上から降ってきて、全てを飲み込んでしまう。奇妙な趣味だと自分でも思う。それに、ずっと窓の外ばかりを眺めていたら、先生に怒られてしまうだろう。中庭に面した校舎の二階、窓際一番後ろの席は、授業に集中するには一番条件の悪い場所だ。もっとも、教壇の上からは全生徒の行動が筒抜けらしいけれど。
もう一度授業に集中しようと思った。けれどひとつ、中庭に奇妙な何かを見つけた。一瞬頭の中に渦巻いた思いはあっという間に消えてしまって、目の前の景色以外のものが何も見えなくなる。
花壇の裏側から小さな何かが顔を出していた。赤い二つの点が雪の白とコントラストをなして、それが妙に目を引いたのだ。長い耳、手のひら大の雪玉をくっつけたような口吻は雪と同じ真っ白で、赤い瞳がなければその姿に気づくことができなかっただろう。
一対の赤い目は神経質そうな動作で左右を見回した。中庭には何の危険もないとわかると、そいつは勢いよく花壇の裏から飛び出した。その姿は兎に似ていた。学校のどこかに飼育室があって、そこから逃げてきたのかなと最初は思った。
そいつは歩道の上をくるくると駆け回った。雪の上についた足跡を降り積もる雪が次々に消していくせいで、そいつが存在した痕跡は残らない。
雪がひときわ強くなった。やがて視界を覆いつくすほどの空間を閉めて、僕はそいつの姿を見失ってしまった。すると、僕が探すのを諦めたところを見計らっていたように雪が弱まった。後には、誰かが踏み荒らす前の綺麗な雪景色だけが残った。




