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私の創った世界はどうでしたか?  作者: 冬月 広
第一章
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第二話【始めの音】

ーーー 如月音羽 ーーー



「もうこんな時間かぁ.....そろそろアラームが鳴る時間だわ」


『うん、わかった! 今日の夜もこっちに来る?』


「勿論!」


『わかった。待ってるね!』




私は小さな妖精に別れを告げ、頭の中でアラームが鳴り響、元の世界へ戻った。





*****************************




現実世界に戻り、しばらくそのままベットの上で天井を見つめる。




「いつからだろう......あっちの世界に行けるようになったの......」




戻ってから、私はふと昔の事を思い返した。

そう、確かあれは中学一年生の頃.......。




私は、物語のヒロインになりたかった。




誰もが羨む華やかなドレスを着て、煌びやかな靴を履き、妖精の力で舞踏会へ

そして素敵な王子様と出会い恋に落ちる.....そんな美しい物語のヒロインに....。




【私はずっと待ち望んでいたのだと思う。

 いつか誰かが、私をここから連れ出してくれることを.....】




私は昔からあがり症で、人と話すとすぐ顔が赤くなり

上手くコミュニケーションが取れず、そのせいか

どんどん暗い性格となり、今の私の人格を作り上げた。

そんな性格だから、友達も出来なくて、いつも一人だった。




よく周りから言われた。




『何で音羽ちゃんは、誰とも話さないの? 』


『音羽ちゃんは私達の事、嫌いなの?』


『音羽、ちゃんと友達作らないとひとりぼっちになるぞ』




私はいつもそんな無邪気な言葉を受け続けていた。




「私だって、話せるものなら話したいよ......」


「そもそも、話してもいないのだから、嫌いなわけないじゃん......」


「私だって、友達と普通に遊びに行って、恋愛の話で盛り上がったり

 楽しい事、辛い事一緒に共有して、泣いたり笑ったりしたい......」




ーーーもうこんな自分が嫌だーーー




「変わりたい......変わりたい.......変わりたい.......

 お願い、誰か私をこの世界から連れ出して..... 」




そんな事を考えていると、頭の中に声が流れ込んできた。




『あなたが強く望めば、あなたの望む世界に行けるよ』


小さな女の子の声.....


「えっ.....だれ??...................私を......知ってるの??」


『うん! 知ってるわ。ずっとあなたの側にいたから。

 それより、どうする? 』


「本当に.....本当に、この世界から連れ出してくれるの?? 」


『勿論! あなたが強く望めばね!』




少し怖い気もしたけど、私は強く願った。

だって、あの頃の私は幼くて、弱々しくて、いつ壊れてもおかしくなかったくらい

世界がとても小さく感じていたのだから。

もう藁にもすがる思いで必死に願った。




【お願い、誰でもいいから、誰か私をこの世界から連れ出して!!】




すると、目の前が急に歪み始め、次の瞬間、少し見覚えのある風景に切り替わった。




「あれ?? ...........この世界ってどこかで見た事あるような.......」




そこは大きな広場で、中央には巨大な噴水、周りには様々な食材のお店や、武器屋、防具屋が建ち並び、街は活気に溢れ、花々がカラフルに咲き乱れ、ヨーロッパ風の街並みを鮮やかに装飾している。




辺りを見渡していると、横からいきなり声がした。




『こんにちは、音羽』


「...ん? 」


『やっと会えたね』



ついさっき頭の中に流れてきた声の持ち主は、小さな水色のドレスを纏い、透き通るような純白の髪を足元まで伸ばした、掌サイズよりやや大きい妖精だった。




「あなたは誰? 何で私の名前を知っているの?? ここは何処なの??」


『私は、妖精のリリィー、ずっとあなたのそばに居たの。

 そしてここは、音羽の望んだ世界だよ!』




驚きのあまり頭が混乱し、整理が追いつかなかった。




「ここがあたしの望んだ世界.......私の好きな物語の世界に、よく似ている気がする」


『それはそうよ! だってあなたの心の中には、いつもこの世界が広がっていたじゃない』



そうか....私はいつもあの絵本の中のヒロインに憧れて.......



「.....だから、この世界に来れたのね。すごいっ! すごいわっ!! 夢みたい!!!」


『その表現はあながち間違ってはないわよ』


「えっ??」


『今、音羽は夢と現実の狭間にいるの。この世界は音羽の心が創り出した世界。

 音羽が真に望めば、大抵の事は、思い通りに変えられるわ』


「大抵の事なら、どんな風にでも??」


『そう! 全部思い通りに変えられない理由は、音羽の心に闇が現れた時かな。

 それだけは、思い通りにならないの。人間の感情の善悪は表裏一体だからね』


「なるほど....そっか、わかったわ。少し難しいような気もするけど......

 でも私は今は何より、この世界に来れたことが嬉しいのっ!」




私は、目から星屑が飛び出してきそうなくらい、興奮を抑えきれずにいた。




『音羽には余計な心配だったかしら』




そう言って、リリィーは優しく微笑んだ。




それからリリィーはこの街を案内してくれた。

ヨーロッパ風のジュエリー店や、レストラン。

先が見えないくらい広大なお花畑に、とても大きなお城。

私が思い描いた理想の街が、そこには広がっていたのだ。



それから何度も、この世界を訪れ、リリィーと遊んだり、他愛もない話をした。

もちろん現実世界の話も......。

リリィーは全てを受け入れてくれた。

いっぱい喋って、心から笑って、いつもはとても難しくて出来ないはずなの会話も

この世界では、リリィーの前では普通に出来ることが、とても嬉しかった。








「懐かしいなぁ.....あの時は、ほんっとびっくりしたっけ......」




そんな昔の思い出に浸っていると、コン、コンとノックの音がし

妹の歌音ちゃんが部屋に入ってきた。




『音羽、もう朝だよ、この寝坊助! 一緒に入学式行くんでしょ!

 早く準備しないと置いてくよ??』


そう言いながら、優しい笑顔で私を見つめる。


「ありがとう、歌音(カノン)ちゃん。今、下行くね」




私の返答を聞くと、ふふっと笑い声を零し、歌音ちゃんは下へと降りて行った。




私達は双子の姉妹で、昔からどこに行くのにも一緒だったから

姉妹というより、友達みたいな関係だった。




歌音ちゃんは私とは違い、性格も明るく、友達も頻繁に家に遊びにくる。

学校では人気者で、彼女の周りには、いつも笑顔が溢れていた。

私がこんな性格だから、学校でたまにからかってくる男子もいた。

その度に、歌音ちゃんは助けてくれて、どっちがお姉ちゃんかわかったものではなかった。


そのお陰で、私をいじめる子は一人もいなかった。

それと同時に、私に興味を持つ子も、残念ながら一人もいなかった。




髪は明るい茶色でショートカット、目は大きく、体は程よい感じに引き締まり、スタイルは抜群。彼女の笑顔は、心を暖かくさせ、花に例えるなら、向日葵が一番似合うと私は思う。

敢えて一つだけ欠点を挙げるとすれば、勉強が少し苦手なところくらい。




身支度を整え、歌音ちゃんと家を出る。

私の家は学校から徒歩圏内にあるから、二人で歩いて登校する。




登校中、歌音ちゃんは楽しそうで

『これからどんな出会いが待っているのだろう』

『どんな楽しい事が起こるかなぁー』

などを話しながら、胸を躍らせている様子だった。




「歌音ちゃんは本当に可愛いし、明るくて羨ましいなぁー」


『何言ってんのよぉ!! 私なんかより、音羽の方が可愛くて美人じゃん!!

 音羽は自信がなさすぎるだけっ! 一部の男子からは高嶺の花なんだからね!』


急に顔が赤くなる。


「そんな事ないよぉ......」


『そんな事あるの! 音羽が全然話さないから、みんな近寄り難いんだよ。

 私だっていつも心配なんだよ? 高校からは変わるんでしょ??

 大丈夫!! 私も協力してあげるから、一緒に頑張ろう!!』



そう言った歌音ちゃんは少し照れた様子だった。



「歌音ちゃーん......だいすきぃいいい.....」


私はそう言って歌音ちゃんに抱きついた。


『あーもう、わかったから、くっつかないのー』




そんな会話をしていると、正門までの桜並木の入り口にやってきた。

桜並木を抜けた正門付近に、中学からの歌音ちゃんの友達が居ることに気づいた。




『音羽、あんまり緊張しすぎちゃダメだよ。私ちょっと友達に挨拶してくるから』



そう言い残し、歌音ちゃんは先に走って行ってしまった。



「まっ、待って.....」



私の声は歌音ちゃんには届かず、サラサラと消えた。



「どうしよう.......一人になってしまった.....」




さっきまでの幸福感が、風と共に飛んで行った。

緊張して一人で学校に行くのが、急に怖くなった。


正門まであともう少し。


一人で入る勇気が湧いて来ない。


心臓がバクバクと音を鳴らし、外に聞こえているのではないかと心配になる。



気持ちを落ち着かせる為、深呼吸をし、桜の木に目をやる。

立派に咲き誇る桜は、どこか儚げで、清らかさを感じる。

少しずつ、心臓の音が小さくなっていくのがわかった。


「桜ってなんでこんなに綺麗なんだろう」



すると風が吹き、沢山の桜の花びらが宙を舞う。

頬で靡く髪を、右耳のところで軽く抑える。




風が納まると桜並木の下の方で、男の子がこちらを見ている事に気づく。




「えっえっ......なんで見られてるの? 」

「なにか変なことしたかな??」



落ち着き始めていた心臓が、息を吹き返し、恥ずかさで顔が熱くなる。

気づいたらその場から走り出している自分がいた。 

昇降口につき、自分のクラスを確認し、下駄箱に向かう。


ふと気になり、後ろを振り返り正門を見つめた。


「あの人なんだったんだろう.......」





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