第一話【出会いの音】
ーーー 霧島 歩夢 ーーー
「ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ」
はぁ.....毎日毎日、人の気も知らず騒ぎ立てやがって.....。
夢か現実かの境目で、必死に手で周囲を探り、お目当ての目覚まし時計を発見する。自分の為に自分でセットしたので、文句は言えないのだが、朝からこの音に起こされると少しモヤモヤする。
「もう朝かぁ.......しかしさっきの夢は何だったんだろう.......」
そう思いながらベットに沈んだ重たい体に鞭打って、階段を降りリビングへ向かう途中、だんだんと美味しそうな香りが漂ってきて、完全に僕の現実世界が目を覚ます。
「おはよー。あれっ.....お父さんは?」
『おはよう、もうとっくに仕事に行ったわよ。
歩夢も今日入学式なんだから、早くご飯食べて支度しちゃいなさいねぇ』
そう言ってお母さんはお茶碗にご飯をよそってくれている。
そうか、今日は入学式だ。
この春、僕こと、霧島 歩夢は、晴れて高校一年生となるのだ。
僕の今までの人生は特に人に自慢出来る事はなく、唯一挙げるとしたら小学5年生の頃に、習字の授業で奇跡的にうまく書いた「光」という文字を褒められ、一ヶ月くらい教室の後ろに、貼り出されたことくらいだ。
まぁ....あれは自慢というカテゴリーに属さないものかもしれないが.....。
朝食を食べ終え身支度をし学校へ向かう。
学校は家から歩いて20分くらいの所にあるから意外と朝はゆっくり出来る。
通学路には鮮やかな桜並木と、まだ着崩れされてないブレザーを身に纏う新入生、和気藹々と会話を楽しむ在学生の姿がよく目に入り、入学式だと強く実感させる。
心臓の鼓動が早くなり、これは興奮しているワクワク感なのか、緊張しているドキドキ感なのかはわからないが、多分、この先に待つ未確定な未来に期待していたのかもしれない。
僕は心の中で願ったのだ。
【どうか僕にも人生が変わる大イベントが起きますように.....。】
「まぁ...そんな都合のいいことなんて起こるわけないか.....」
そう。いきなり人生が変わるなんて、そんな漫画の世界みたいな都合の良い話など、この現実世界には起こりえない事なのは理解している。
理解しているつもりだが、この何かに期待してしまう高揚感の前では、僕はただただ無力で、願わずにはいられなかったのだ。
儚げな願いを胸に抱きながら正門までの最後の坂道。
桜並木の下に新入生らしき女の子が立っていた.....。
はっと息を呑む......。
なんて綺麗な女の人なのだろう......。
彼女の目は綺麗な二重で、吸い込まれそうなくらい澄みきり、腕と足は雪のように白くすらっとし品があり、肩甲骨まである、細くて透き通る黒髪は、優美な彼女に恐ろしく似合っていた。
ーーー風が吹き、沢山の桜の花びらが宙を舞うーーー
ーーそう、彼女は今までの何もなかった僕の人生に突如現れ、僕の心を彩ったーー
詰まる所、そう....僕は彼女に、一目で恋に落ちたのだーーーー。
「キーン コーン カーン コーンーーー」
ーーチャイムの音が鳴り響くーー
ふと我に返り辺りを見回す。
もう周りには、自分以外誰も生徒は居なかった。
恥ずかしい話、僕は衝撃的な出会いに、動けずにいたのだ。
どのくらい時間が経ったのかはわからないが、彼女ももう学校に向かったみたいだ。
「こんな事ってあるんだなぁ......とりあえず急いで教室いかないと。」
昇降口の横にある大きな掲示板で、自分のクラスを確認し、下駄箱で上履きに履き替え、教室へ向かう。
「え...っと...1ーA.....1ーA.....っと、ここだ」
僕は自分の教室を見つけ、ガラガラっとドアを開ける。
一斉に沢山の目が向けられたが、それはすぐに消えていった。
教室にはもう沢山の生徒が揃っていて、多分、僕が一番最後だったのだと思う。
「はぁ.....どうしよう......」
クラスメイトは賑やかに会話を楽しんでいて
既にいくつかのグループが出来上がっていたのだ。
「うわぁ.....完全に出遅れた....。 最初のスタートがとても大事なのに.....」
気を取り直して辺りを見回し、自分の席を探す。
すると教室の窓際、一番左の列の、後ろから二番目の席に、つい先程
一方的な衝撃的出会いをした彼女が座っていたのだ。
「えっ、ええっと......こんな事ってあるの....?
しかも僕の席の前が彼女だなんて...」
もう、溢れ出てしまいそうな程の興奮を、兎に角、必死に押し込んだ。
急に教室のドアが開き先生が入ってきた。
「ほら、みんなー、席付きなさーい、HRを始めますよー」
そう言いながら教壇に向かう女性教師。
多分年齢は20代前半くらいで、目が大きく笑顔が素敵で少し茶色がかったショートヘアー。誰がどう見てもモテるジャンルの人だった。
「みんなー、私の名前は、月乃 美由紀、担当教科は国語です。
私も今日からこの桜ヶ丘高校の新人教師として赴任し
みんなは私にとって初めての担任クラスです。一年間よろしくね!」
そう元気ある声で挨拶を締め、にっこりと笑顔を作る先生。
男子生徒が騒ぎ始め、女子生徒が先生を質問責めにするまでそう時間はかからなかった。
「素敵な先生だなぁ....」
僕の先生に対する最初の印象はこんな感じだった。
「それでは、みんなには最初に、簡単な自己紹介をしてもらいます。
では、窓際の席の人からどうぞ!」
それから自己紹介が淡々と進んでいき、遂に彼女の番になった。
彼女はどんな名前で、どんな声なのだろう。
ワクワクした気持ちで彼女の第一声を待った。
「は、はじ...めまして、せっ...聖花中学からきました
きっ..如月 音羽 です。
趣味は、とっ特...にありません。よっ....よろしく...おっ...お願いします。」
「....えぇっと....終わり...かな?」
そう先生は言いながらも拍手をした。それにつられ生徒が一斉に拍手をする。
一瞬みんなの拍手が遅れたがそれも仕方なかった。
彼女はものすごく赤面し、みんなに比べ自己紹介が短すぎたのだ。
わかった事は、聖花中学の生徒だった事、趣味がない事、そして物凄くシャイだという事。
そんな所も、物凄く可愛いと思ってしまう僕は、本当に浮かれているのだと思う。
それから全員の自己紹介が終わり、いくつかの連絡事項が言い渡されHRは終わった。
その後、行われた入学式はというと、淡々と長々しい、いわゆる「校長先生の話」が、大部分を締め閉式となった。
僕は、入学式中どうにか彼女に自然に話しかける方法はないかと、悶々とシミュレーションしたが、結局、良い案は思いつかなかった。
「なんとか話しかけたいなぁ...」
そんな事を考えながら昇降口へと向かう。
今日は入学式だった為、午前中で学校が終わるのだ。
すると、何やら外が騒がしい事に気づく。
「野球部入らないですかー!」
『バレー部楽しいですよー!!』
「漫画に興味ある方ー」
昇降口を出ると、先輩達による部活動勧誘アーチが、正門まで長々と続いていた。
『うぉおー!!この学校、部活動が盛んなんだなぁー』
急に後ろから男子生徒の声がした。
『よっ!俺、同じクラスの水木 誠也、たしか霧島.....』
「歩夢だよ!」
『おぉそうだ、宜しくな歩夢!』
「うん!宜しく、水木君」
『誠也でいいぜ!』
「.....そっか、わかった、改めて宜しく誠也!」
僕は安堵した。
初っ端から出遅れたせいで、友達が出来るか、少し不安だったからだ。
こうして高校生初めての友達ができた。
誠也はイケメンで明るく、今日も午前中しか学校がなかったのに
もうクラスの中心的で、みんな彼の元に自然と集まっていた。
どこの学校にも絶対いるであろう、典型的なムードメーカーなのだ。
『歩夢は部活なにかやるのか?』
「いやぁ...僕はこれと言って特技もないし、やる予定はなかったけど......誠也は?
今までどんな部活やってたの?」
『俺、小学一年から中学三年までずっとバスケやってたんだけどさぁ
肘痛めちゃって.....もう高校ではいいかなぁーって』
「そうなんだぁ....なんかごめんね。」
『いやっ、気にすんなよ、大した事じゃないし、新しい事に挑戦する良いきっかけだよ!歩夢も特にやる事ないなら、一緒の部活入ろうぜ!』
「えぇー.......」
どうしよう.....でもここで自分を変えないとこの先僕はずっと変わらず、
良くも悪くも普通に生きていくだけ.....
やばい、簡単に未来が想像できてしまう自分がいる......。
このチャンスから目を背けちゃダメな気がする.....
「わかった、いいよ!!一緒に部活やろう!! ....でも何にするの?」
『うぅ...ん....そうだなー、俺もまだ何がしたいかは決まってないんだよなぁ.....
そうだっ!じゃあ今日HRで配られた部活動一覧のパンフレットみて
明日までに何の部活に入るか考えて来ようぜ』
「わかった。考えてくるよ! それじゃまた明日、学校でね」
『おう!あっ、そうだ、携帯の番号とアドレス教えてくれよ!
暇な時連絡するからさー!』
「うん、いいよ」
『っよし!じゃあまた明日な!』
そういって誠也はなぜか学校に戻って行った。
「??? まぁ...いっか。」
そう思いながら先輩達のアーチを抜ける。
「そういえば如月さんは部活入るのかなぁ.....」
そんな事を考えながら、桜並木の坂道をゆっくり歩き
今日の衝撃的な出会いを思い返し、未確定な未来に大いに期待した。
こうして僕の不思議な高校生活が幕を開けたのだ。
始めて小説を書きました。
この物語が、沢山の人に愛してもらえる様、これからも頑張ります。
小説を書くスピードや、感覚が掴めてきたら、正確な時間等をお知らせします。
それでは、この物語が、皆様の心に残るものになりように.....。