愛美の告白
少し遅れてから学校を出ると、外はだいぶ薄暗くなっていた。あと数十分で夜の帳が下りてくるのだろう。まだ微かに残る茜空を名残惜しく見送りながら、早足で目的地まで行くと、いつもと変わらずゆったり流れる川が夜の闇に溶けかけていた。
河川敷の方に下りていくと、愛美さんは川の流れを見つめていた。
こちらに気づくと、薄暗くてもはっきりわかり笑顔を見せた。
「あっ、来てくれた」
「当たり前だよ。お待たせ」
「ちょうどいいくらいだよ。おかげで準備できた」
どこか清々しい笑顔を見せた愛美さんは僕を手招きした。
傍まで行くと、彼女は川の方に目をやった。
どんより見える流れはいつもどおりでもどこかゆったりとして見えて、普段とは違う顔を見せている。
それは隣りにいる彼女も一緒だった。
いつもとどこか違う。でも、それをどう言葉にすればいいかわからない。
やがてその形のいい唇が動いた。
「単刀直入に言うよ。森原先生と付き合ってる?」
「えっ?」
単刀直入という言葉そのもののような質問をされたので、僕は目を見開いたまま、愛美さんの顔を見た。
しかし、彼女は川の流れから目をそらす気配はなく唇も閉ざされたままだったので、僕の方から口を開いた。
「……付き合ってるっていう言い方が当てはまるかはわからないけど……僕は先生のことが好きだし、先生も僕を好きでいてくれてる」
僕の言葉に彼女の瞼が少し動いた。
川に視線を固定したままだったが、やがて瞼を閉じて、ぽつりと呟いた。
「……………………そっか」
それからようやくこちらを向いた。
「祐一君、先生の事あからさまに好きだったもんね」
「そ、そうなのかなぁ?それは気づかなかった……」
「実は私も君の事が好きだったんだよ」
「…………」
思いも寄らないタイミングだったけど、僕は黙って頷いた。
知ってたとは違う。ただ、何となくそうじゃないかと思っていただけだ。そして、自分なんかがと勝手に卑屈になって考えることから逃げていただけ。
今さらながら情けない自分と向き合えた。
「ねえ、祐一君の気持ちを聞かせてくれない?」
「……ごめん。僕は先生が好きなんだ」
「ふふっ、だよね。知ってるよ」
そう言いながら笑う彼女の頬には、一筋の涙がやわらかな軌道を描いていた。離れた道路に立っている街灯の頼りない灯りが、その小さなひと粒をはっきりと照らしていた
「ねえ、祐一君。この場所覚えてる?」
「え?」
「少し聞いてほしい話があるんだ」
そう言って彼女は再び川の流れに目をやった。
さっきよりそれは穏やかに見えた。




