呼び出し
「森原先生、何かあったんですか~?」
「……今朝、目玉焼きを作ろうとしたら、黄身が二つ出てきました」
「わああ……それは幸運ですねえ~」
「ええ、そうなんですよ。新井先生にも良いことが起こりますように」
「も、森原先生がデレた!?これは事件です!どうしましょう!」
「そうですね。お昼ご飯食べなくていいんですか?」
「あっ、それもそうですね。じゃあいただきま~す」
ふぅ……このやりとり、これで三回目になるわ。まあ、毎回テキトーな理由で誤魔化せているからいいけど。
新井先生は意外と鋭いところがあるから油断はできないわ。
「今日は浅野くんもいつもと様子が違うんですよね~」
「…………」
「どうかしましたか~?」
「いえ、何でもないわ。彼もそういう日くらいあるでしょう。今は思春期だし」
「思春期なんですかねぇ~」
「ええ。だからあまり触れないほうがいいこともあるわ」
「わかりましたぁ~。お年頃ですからね~」
何の生産性もないやりとりだけど、何とか誤魔化したわ。
しかし、やっぱり祐一君が心配ね。彼にポーカーフェイスなんて無理だろうから。なんてかわいいのかしら。
……顔見たいなぁ。
「森原先生、にやにやしてません?」
「してません」
「え?でも……」
「してません」
「は、はい……」
このやりとりの中で、私はある決心をした。
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家に帰りしばらくすると、枕元に放置していた携帯が震えた。
画面を確認し、先生だとわかると、すぐに通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
「あの、ちょっといいかしら」
「大丈夫ですよ」
「……………………会いたいわ「行きます」……早いわね」
「だって僕も会いたいですから」
「おふっ」
「先生っ!?」
「大丈夫よ。幸せにむせているだけだから」
「そ、そうなんですか?それはそれで心配なんですが……とにかく今から行きます」
「ええ。待ってるわ」
やばい。勝手に笑顔になってる。我ながら浮かれすぎだろ。学校でこうなってたら本当にやばい。
でも仕方ないよね。恋だし。きっと誰だってこうなるはずだ。
僕は短時間で身なりを整え、家を飛び出した。
********
呼び鈴を押すと、インターフォンから「入って」と聞こえてきた。
焦りを悟られないように、あえてゆっくりとドアを開けると、先生はすぐそこに立っていた。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
ドアを閉めると、何の前触れもなくいきなり抱きつかれた。
甘い香りが鼻腔から脳を支配していく。
やわらかな先生の感触も心を支配した。
「わわっ!?」
「遅い」
「すいません……」
「ふふっ、謝らなくていいわ。私がワガママで呼んだだけだから」
「ワガママなんかじゃないですよ。僕も会いたかったです」
「あら、気が合うのね。じゃあ奥へ行きましょ」
そう言って体を離した先生は小悪魔めいた笑みを浮かべていた。




