表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/106

「好き」

 まさか、そんなにいつもと違ったのだろうか?

 落ち着かない気持ちで周囲を窺ってみたけれど、特に何かがわかるわけでもない。


「……祐一君、何かあった?」

「はぅわっ!」

「わぁ!び、びっくりしたぁ……そこまで驚かなくてもいいじゃない」

「あ、あぁ、ごめん。おはよう、愛美さん」

「おはよう、てかどうかしたの?朝からそわそわして……」

「えっ、あっ!そうだ!一限目の授業行かなきゃ!」

「あっ、ちょっと……一限目は古文だから教室移動ないんだけど……怪しい」


 ********


「「あっ……」」


 とりあえず別の階のトイレで落ち着こうとしたら、ちょうど隣の女子トイレから出てきた先生と遭遇した。

 先生も予想外で驚いたのか、目を丸くしている。

 このままだと沈黙が訪れそうだったので、僕は思いつくまま口を開いた。


「あっ、先生……今トイレいってたんですか?」

「浅野君、その質問はさすがにデリカシーがなさすぎると思うわ」

「すいません……」


 何を聞いているんだ、僕は。混乱気味とはいえヤバいだろ。


「……ごめんなさい」

「え?」


 突然呟かれた謝罪の言葉と共に、先生は申し訳なさそうな表情を見せた。


「今朝は少し浮かれていたわ。むしろ今から気を引き締めなければならないのに……」

「……僕もです。いつもどおりにできてると思ったんですけど」

「ふふ、気をつけなくちゃいけないわね」

「先生、ちょっと嬉しそうですね」

「もちろん。こういうの憧れてたの。次からは注意するけれど」

「僕も気をつけます」

「ふふっ、君がポーカーフェイスを頑張っているのを見ちゃったら、吹き出しちゃうかも」

「そんなぁ、勘弁してくださいよ……」

「うふふ、あらいけない。こういうのを直さなきゃいけないのにね」

「あはは……でも、先生と話してたら何か安心しました」

「そう、ならよかったわ。あっ、そろそろ行かなきゃ」

「僕もです。はやく教室に戻らないと」

「じゃあ、居眠りしないようにね」

「はい、気をつけます」


 頷きあってから、それぞれの方向へ歩き始めると、背後から声をかけられた。


「浅野君」

「はい?」


 先生はこちらに微笑みを向け、小さく唇を動かした。

 その動きを見ていた僕は即座にそれを理解して、顔が赤くなるのを感じた。


『好き』


 その一言だけ残して、先生は僕に背を向けた。

 見えなくなるまで見とれていたかったけど、油断してはいけないので、僕も教室へと向かった。

 ……次の授業、大丈夫かなぁ。これしばらく顔赤いと思うんだけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ