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答え

「……んん?」


 小説を読んでいたら、いつの間にか寝落ちしていたらしい。どこまで読んだんだっけ?

 思い出そうとすると、頭に微かな痛みを感じた。

 その痛みと共に、先生の笑顔が浮かんできた。

 だが、その笑顔は今の先生より幼く見えた。


 ********


 今日はお昼前に体育の授業なのね。最近はすっかり体力もついてきて何よりだわ。球技はへたっぴだけど。あ、こけた。大丈夫かしら。後で手当てしてあげなくちゃ。


「森川せんせ~」

「新井先生、どうかしましたか?」

「それはこっちのセリフですよ。グラウンドの方ばかりじ~っと見ちゃって~」

「……ええ。生徒がきちんと授業を受けているかを確認しただけです」

「クールに誤魔化す森原せんせ~、そこにしびれます、憧れます~」

「茶化さないでください」

「はい」


 まったくこの人は……そこが可愛いところではあるのだけれど、たまに心を読まれているんじゃないかと思うことがある。


「じゃあ、そのプリントは私がまとめておきますので、先生は次の作業をどうぞ~」

「えっ?でも次は……」


 すると、新井先生はぱちりと可愛らしくウインクをした。それで察した私はすぐに立ち上がり、彼女に頭を下げた。


「では、お願いしますね」

「はいはい~」


 新井先生の意図はわからないけれど、喜んでご厚意に甘えよう。

 私は早足で保健室へと向かった。


 ********


 考え事をしながらサッカーをしていたら、うっかりこけてしまった。ついてない……。


「し、失礼しまーす……」


 ゆっくり保健室の扉を開けると、そこには見慣れた姿があった。


「えっ、森原先生?」

「……偶然ね」

「そうですね……あの、さっき転んでしまったんで手当てを……」

「なるほど。任せて」

「え?せ、先生がやってくれるんですか?」

「このぐらいなら大丈夫よ。さあ、傷を見せて」

「あ、はい。よろしくお願いします」


 先生は僕の足に丁寧に消毒液をかけ、優しく処置を施してくれた。

 先生が屈む度に豊満な胸元が強調され、目のやり場に困った僕は目をそらしてしまう 。

 そして、雑念を追い払ったところで、僕は先生に声をかけることにした。


「あ、あの、先生……」

「何?」


 とりあえず声をかけたものの、何を話すかまでは決めていなかった。

 保健室の静寂の中、僕は思いつくまま口を開いた。


「付き合ってる人、いるんですか?」

「っ!」


 何を言ってるんだ、僕は!

 先生も予想外の質問に驚いたのか、目を見開き、こちらを見た。


「……きゅ、急な質問ね。一体何があったの?」

「す、すいません……自然と口から出てきたといいますか……」

「そう……でも、私は教師で君は生徒。だから今の質問に対しては指導を行う必要があるわ。目を閉じて」

「はい……」


 どうやら怒らせてしまったらしい。

 大人しく目を閉じると、先生の気配が近くなった。


「これが私の答えよ」

「え?」


 柔らかいものが僕の額に触れた。これって……。

 その事実を認識するのに数秒かかり、認識してからは、さらに頭の中がこんがらがってくる。

 えっ?えっ?こ、答えって?


「いつまでも待ってるから」

「は、はい……」

「じゃあ、今度は転ばないようにね」


 先生は立ち上がり、軽やかな足取りで保健室を出た。

 僕は閉まった扉を見つめたまま、しばらく固まっていた。


 

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