母校、周辺
「う~ん……」
昼休み、改めて事情を話すと、愛美さんは口元に指先を当て、中学時代の記憶を辿っている。
やがて、残念そうな顔をして、頭を下げた。
「ごめん。やっぱり記憶にないや……」
「そっか」
これはまあ予想していた。
僕が彼女とよく関わるようになったのは、高校2年の頃からだし、まあ知らない方が自然だろう。
「……思い出したのかと思ったよ」
「え?」
「あっ、こっちの話、こっちの話!じゃあ何か思い出したら言うね。何なら中学の時の友達とかに聞いてみる?」
「あ、それは大丈夫……」
「何で?」
「ほら、僕中学の頃、友達……」
「……ごめん」
その心の底から申し訳なさそうな声に、今度は僕のほうが申し訳ない気分になった。いや、いいんだけどね……。
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今日の最後の授業は森原先生だ。昨日の事があったからか、朝は全然目が合わなかった。
そして、今も授業中にくっついてくることはしない。
普通に考えたら当たり前のことなんだろうけど、何だかぽっかり胸に穴が空いたような感覚がする。物足りないというか何というか……。
結局チャイムが鳴るまで、いつもと違う気分で授業時間は過ぎていった。
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本当は授業が終わってすぐに先生を追いかけたかったけど、何故かできなかった。
……やっぱり自分で思い出さなきゃ。
たとえそれがどんなに非効率であろうとも。
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ど、どうしよう祐一君がやたら私に対して前のめりになってる……!
これ、もう自分から全部言っちゃったほうがいいんじゃないかしら?
いえ、それは駄目。せっかく彼が自分から動いてくれてるんだから。
果報は寝て待てとも言うし、いや、でも……。
「森原先生、どうしたんですか~?フラフラしてますけど」
「見間違いでは?」
「え、でも~」
「見間違いでは?」
「そ、そうですね~。見間違いですよね~あはは……」
いけない。動揺が表に出てしまっているではないか。
私はかぶりを振って、なるべくいつもの歩幅や速度を意識して、職員室へと向かった。
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帰り道、僕はいつもと違う道を歩いていた。
それは、一昨年まで通っていた中学校へと続く道だ。
とはいっても、別に母校を訪ねる気はないんだけど。さすがに中学時代の先生に「誰だ?」なんて言われたら、少しはへこむし。奥野さんの反応を見るかぎり、あまり中学は関係ない気がする。
でも、ここに通っていた頃に起こったことなら、この周辺に何かヒントがあるかもしれない。
とりあえず周辺を一周してみた。
……うん、やっぱり何もないや。
さらに、グラウンドにいる女子生徒から不審そうな目を向けられたので、僕は早歩きでその場を後にした。




