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記憶探し

 いつもより少し早く目が覚めた。

 窓の外はまだ薄暗いが、街が目を覚まし、活動を始める気配がそこには確かにあった。


「あとは、ゆっくり思い出してくれればいいから」


 確かに先生はそう言った。

 僕と先生は昔会ったことがあるような言い方だったけど……。

 前もこんなことがあったような?

 白い靄がかかったような記憶からは、何も引き出せない。

 そのかわりに大して行動もせず、人生は不平等だと感じて勝手に俯いたまま過ごしてきた中学生時代を思い出した。

 思えば先生がいたから変われたんだよなぁ。

 それだけは確かだった。

 先生のためにも思い出さなくちゃ。


 ********


 それから、ぼんやりした表情で納豆をかき混ぜてる母さんに、僕は思いきって聞いてみた。


「ねえ、母さん」

「ん?」

「僕って、中学の時何かあった?」

「……アンタ、その歳で……」

「いや、そういうのじゃなくて!何ていうか、その……中学の時にあった大きな出来事というか……」

「それこそ自分で覚えてなきゃおかしいでしょうに」

「そうなんだけどさ」

「ん~、そうねえ……」


 しばらく宙を見て考え込んだ母さんは、テレビのニュースがCMに変わったところで口を開いた。


「大きな出来事といえば、アンタがボロボロになって帰ってきたことくらいね」

「……え?そんなことあったっけ」


 僕の言葉に、母さんは「やっぱり……」と呟いた。


「覚えてはないのね。アンタ、中2の夏休みに一回身体中ボロボロになって帰ってきたのよ」

「…………」


 記憶を手探りで辿るが、何も思い出せない。

 ボロボロと言われても、今はピンピンしているし。


「ケガはしてたけど、そこまでひどくはなかったのよ。ただ服はボロボロだったし、顔は泥だらけだったけど」

「……うーん、やっぱり思い出せない」

「それって、あの子……先生に関係あること?」

「えっ?あ、いや……」

「冗談よ。それより、はやく朝御飯食べないと遅刻するわよ」

「あっ!」


 僕は急いで朝食をかきこみ、家を飛び出した。


 ********


「おはよ、祐一君」

「おはよう」


 教室に入ると、入口付近の席の女子と話していた愛美さんが、こちらに軽く手を上げた。

 こちらも同じように返して、席に着くと、愛美さんもついてきていた。


「今日はやけに慌ててるね。寝坊でもした?」

「いや、ぼーっとしてたらつい出るの遅れちゃって……」

「あははっ、何それ」


 そういえば、愛美さんは中学時代一緒だったから、もしかしたら覚えているかもしれない。


「あの、ちょっといい?」

「なに?」

「中学の時のことなんだけど……」

「えっ?えっ?ちょっ、ちょっと待って!心の準備するから!」


 愛美さんは何故か向こうを向いて深呼吸を始めた。そんなに構えなくてもいいんだけど……。

 やがて、心の準備を終えたのか、頬を赤くして、彼女はこちらを見た。


「な、なにかな?」

「あの、僕が中学の時ボロボロになって家に帰った時のことなんだけど……」

「何それ!?何の話!?」

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