小さな変化
しばらくしてようやくギプスが取れ、僕は喜びに満ち溢れていた。
とはいえ、この一ヶ月間は周りのお世話になりすぎたので、しっかり感謝の気持ちを返さなきゃいけない。
家を出て、真正面にある森原先生の家を見ると、何となくだけど、先生はもう学校にいる気がした。
「裕一くん、おはよ!」
「え?あ、愛美さん!」
「ようやく取れたみたいね。よかったじゃん」
「うん。その……色々とご迷惑おかけしました」
「困った時はお互い様だよ」
「でも、今度お礼はさせてほしい」
「う~ん、じゃあ今度どっか出かけない?一緒に」
「え?いいけど……」
「おお、あっさりOKしてくれた。ふふっ、じゃあ何を奢ってもらおうかな~」
「あはは、任せてよ」
奥野さんは特にお世話になった人の一人なので、それくらいならどうってことない。むしろ足りないくらいだ。
「よっしゃ、じゃあ荷物持ちも任せた!」
「うっ、まあ、筋トレだと思えば……」
「あっ、無理はしなくていいからね。リハビリ程度にやってくれればいいから」
二人で学校までの道を歩き始めた時、僕は何となく先生の家を振り返った。
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教室に入ると、皆が集まってきて「おお、ようやくギプス取れたんだなぁ~!」みたいに賑やかに出迎えてくれた……なんてことはなく、いつもどおりの日常が戻ってきた。
そして、その気分を裏付けるかのように教室の扉が開き、先生が姿を見せた。
「おはようございます」
いつものクールな佇まいに教室内の空気が変わる。毎日体感してはいるけれど、今日は解放感があるからか、特別に感じられた。
「…………」
こちらをじぃっと見つめてくるその目も……あれ?なんか今日長くない?
十秒くらいそうしていたからか、さすがに長すぎて、周りのクラスメートが首を傾げたが、すぐに何事もなかったかのように、朝のホームルームが始まった。
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小さな変化は授業中にもあった。
「…………」
圧が強い!!!
授業中、ちょっと間があると、視線を僕に固定させていた。これまでは気がつけばこちらを見ている的なかんじだったが、今はこちらを見る際には、がっつり視線をこちらに固定している。
だが、普段どおりにしっかり授業はしているので、これに関しては誰も不審がっていなかったけど、愛美さんは「見すぎ……」とぼやいていた。
そして、極めつけは……
「ここは登場人物の心情をしっかり読み解いて……」
先生が注意点を、体をぴったりとくっつけて教えてくれるのだが……。
「っ!」
危うく声が出そうになった。
そう、何て言うか…………いつもより、やわらかいのだ。
せ、先生、もしかして……。
「裕一くん、顔赤くなりすぎ」




