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キオク

「あ、あの、お姉さん大丈夫ですか?」

「…………うん」

「どうかしたんですか?ケガしてますけど……」

「大丈夫。大丈夫だから……」

「でも……大丈夫だから!放っておいて!」

「……無理です」

「えっ?」

「だってお姉さん、泣いてるじゃないですか」

「…………泣いてなんかいないわ」

「泣いてますよ」

「泣いてない。でも、もう喋るのも面倒だから、好きにしない。無視するけど」

「とりあえずハンカチどうぞ」

「…………」

「どうぞ」

「……ありがとう」


 *******


「……………………っ」


 何だ、今のは?

 夢とかじゃない。

 あれはこう、何と言うか……頭の奥深くから出てきたみたいな……。

 欠けていたパズルのピースが、カチリとはまったような感覚だった。

 すると、誰かがこちらを上から覗き込んできた。


「……大丈夫?」

「え?お姉さん?」

「っ!!思い出したの!?思い出してくれたの!!?」

「え?え?」


 いきなり揺さぶられ、僕は上手く言葉が発せなかった。あれ?この人……って、森原先生じゃないか!!


「せ、先生?」

「ねえ、どう?思い出した?」


 先生はいつものクールさはどこへやら、やたらと焦った感じで僕に問いかけている。

 ……思い出したって何だ?どういうこと?

 まさか、さっきの映像は……


「裕くん、やっと起きたぁ~!」

「わぷっ、ね、姉さん!?」

「よかったよ~!いきなり担任の全裸なんか見せられてトラウマになったらどうしようかと思ったよ~!」

「ん?…………っ!!」


 姉さんの言葉ではっきり思い出した。

 そういえば、さっき僕は先生の裸を……。

 まさか2回目が来るとは思わなかった。いやいや、今はそれどころじゃなくて!


「あの、先生……すいませんでした」


 どんな状況であれ、まずは謝るべきだと思った僕は素直に頭を下げた。

 だが先生からは何の反応もない。

 かなり怒っているのかと思い、そっと表情を窺うと、先生は無表情で何やらぶつぶつと呟いていた。


「惜しい。あと少しだった。もう一回裸を見せれば思い出すかしら……よし。あの、もう一回シャワーを浴びてきていいかしら?」

「ええっ!?」

「な、何言ってるんですか!この変態教師!裕くんに何する気!?」

「…………」

「そこで黙られると、本当にやばいみたいでしょっ!」


 結局あれは何だったんだろう。

 そんな疑問はむなしく頭の中に響いていた。

 しかし、この日をきっかけに生じた違和感は日々広がっていき、一つの物語は大きな転機を迎えていくのだった。


 *******


「……あと少し。絶対にあきらめない」


「次の一手は……」

 

 

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