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お世話(森原唯編)

「よし。ついに私の番……頑張らなきゃ」


 *******


「…………んっ?」


 違和感を感じ、目が覚める。

 あれ?なんだ、この感覚……やけに温かい。

 最近は朝起きると、寒さを感じるようになっていたんだけどな……。

 そんな疑問を感じていると、目の前にいる先生と目が合った。

 ……現実を受け入れるのに少し時間がかかりそうなので、もう一度確かめてみよう。

 今僕は、目の前にいる先生と目が合った。


「せ、先生っ!?」


 ようやく理解が追いつき、声をあげると、先生はレンズの向こう側の瞳をこちらに向けたまま、艶やかな唇を動かした。


「おはよう、浅野君」

「あ、おはようございます……じゃなくて!な、なんで先生が僕のベッドの中に!?」

「念のためよ」

「念のため!?」


 雑すぎる回答な気がするが、まあ先生の事だから、僕の腕を心配して、そうしてくれているのかもしれない。

 我ながら雑に納得して、ゆっくり体を起こそうとすると、僕の背中を先生がそっと支えた。


「まだ乱暴に体を動かしてはダメよ」

「あ、ありがとうございます……」


 立ち上がる際に、顔と顔がかなり近づき、朝からかなり緊張させられているが、それでもどこか心地よさを感じてしまう自分がいる。

 先生の甘い香りが、すっかり鼻に馴染んでしまっているからか。


「あ、浅野君……いえ、裕一君?」

「はい?」

「そこまで凝視されると、さすがに恥ずかしいのだけれど……」

「す、すいませんっ!」


 いつの間にか、視線が先生の横顔に固定されていたようで、僕は慌てて顔を逸らし、ゆっくりと今日一日を始めることにした。


 *******


 階段を下り、居間に行くと、テーブルの上には既に朝食が準備されていた。

 朝早くから大変申し訳ない……。

 テーブルに着くと、先生が隣に座り、体をぴったりとくっつけてきた。

 こちらが「え?」と反応するより早く、先生は「いただきます」と呟いた。

 それにつられるように僕も「いただきます」というと、先生は流水のような淀みない動作で、こちらに箸でつまんだ焼き魚を差し出してきた。


「はい、あーん」

「え?じ、自分で……」

「あーん」


 有無を言わさぬ圧力を感じるのは気のせいでしょうか?

 僕が口を開けると、ちょうどいい塩加減の焼き魚が口の中へと運ばれていった。


「どう?」

「おいしいです」

「よかった。今日は私がしっかりお世話するから……覚悟……安心して」

「今、覚悟って言いませんでした!?」


 言い違いなんてレベルじゃない気がする。あと少しだけいつもと様子が違う気が……。


「ちょっと何言ってるのかわからないわ」

「やっぱりいつもと違う!ど、どうかしたんですか、せんせ、んぐっ!?」


 その後、先生に次々と食べさせられ、何かあったのかと聞く暇はなかった。

 ちなみに、この後歯磨きまで手伝われそうになったが、何とか歯みがき粉を歯ブラシに垂らしてもらうだけにした。


 *******


「い、いけないわ。何だか空回りしてる……私とした事が、緊張しているのかしら?」


「よしっ、が、学校では挽回しなきゃ!」


 *******


 授業中。

 朝とは違い、一見いつもどおりに見えたが……。

 何だか目が合う回数が多い気がする。

 普段から授業中に目が合うのは珍しくも何ともないんだけど、今日は特に多い。

 この違和感は、おそらく僕や奥野さんしか感じていないだろうけど……本当にどうしたんだろう?

 そして、先生が文法の説明をしながら、教室内を歩き始めた時、事件は起こった。


「じゃあ、次は……きゃっ!」

「っ!?」

 

 意外なくらいに可愛らしい悲鳴。

 こちらが反応するより先に柔らかな何かが横顔にぶつかってきた。

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