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お世話(奥野愛美編)

「よし、今日は私が……頑張らなきゃ!!」

「愛美~、ってアンタ何一人でガッツポーズしてんの?発情期?」

「い、いきなり入ってこないでよ、お母さん!!」


 *******


 朝目が覚めると、ある事を思い出す。

 たしか今日は奥野さんが来るんだっけ……。

 やはり緊張してしまう。

 もちろん森原先生や新井先生相手でも緊張はするんだけど、同級生ともなると、そういう種類の緊張とは違う。

 ……いつも以上に、迷惑をかけないよう、意識しなくちゃな。

 そんな事を考えていると、呼び鈴が鳴り響いた。どうやら到着したみたいだ……てか、早いな。思ってたよりずっと早い……。

 駆け足で玄関まで行き、鍵を開けると、制服姿の奥野さんが立っていた。


「お、おはよ……」

「お、おはようございます」

「…………」

「…………」


 挨拶の後に流れる沈黙の時間。

 気まずさを振り払うように声をかけようとすると、奥野さんがいきなり吹き出した。


「あははっ、浅野君……今起きたでしょ?」

「え?そうだけど……」

「寝癖ついてるよ。あははっ」


 奥野さんは笑いながら、ちょこんと背伸びをして、僕の髪に触れた。

 一気に顔の距離が近くなり、爽やかな香りが漂う。

 それだけで一気に目が覚めた。や、やっぱりリア充の人って距離感やばいな……。

 すると、奥野さんは何かに気づいたように「あっ」と声を出して、さっと離れた。


「あはは……い、いきなりごめんね?私ったらつい……」

「い、いえ、こちらこそ……朝からお見苦しい状態で申し訳ない……」

「いえいえ、そんなことないから……むしろ、貴重な姿を見れてラッキーだから。早起きは三文の得だから!」

「そうですか……」


 そこまでだろうかと内心思うが、まあ奥野さんが良しとしてくれるならいいか。

 奥野さんは、にっこり笑みを見せ、左手に持った紙袋を掲げてみせた。


「それじゃあ、朝御飯作ってきたから、一緒に食べよっか。浅野君ははやく顔洗って着替えてきて」

「はい」


 僕は頷いてから、駆け足で洗面所まで急いだ。


 *******


 浅野君が洗面所に行ってから、私はしばらく深呼吸をしていた。あぁ、緊張感やっばいよ!

 で、でも、このチャンスを生かさなきゃ!落ち着け、私!!


「よし、まずはいい感じっ……だったよね?私、変な事言ってないよね?」

「奥野さん、どうかしたの?」

「わあっ!び、びっくりしたぁ……はやいね」

「あまり待たせるのも申し訳ないからね。全速力で準備してきたよ。それと僕も準備手伝うよ」

「そっか、ありがと。じゃあお願いしようかな」


 *******


 食器を出し、奥野さんが持ってきてくれた料理を盛りつけ、二人でテーブルに着くと、なんだか不思議な気分がした。

 どちらからともなく「いただきます」を言うと、そのくすぐったさはさらに大きくなった。


「あはは……なんだろうね。なんか照れくさいね」

「たしかに。あ、これ美味しい!」

「ほんとっ!?よかったぁ……まあ、その……味見はしたんだけどね。やっぱりそう言ってもらえると嬉しいな」


 そう言いながら、やわらかな笑顔を見せる奥野さんに、自然と胸が高鳴る。教室では見られない表情だったからかもしれない。

 すると、奥野さんと思いきり目が合ってしまう。


「ん?私の顔に何かついてる?」

「えっ?いや、何も、ご、ごめん!!つい……」

「あははっ、なになに?そ、そんなに見たいなら、もっと見てくれてもいいんだよ?…………なんちゃって」

「そ、そうだよね、あはは……」

「…………私のヘタレ」

「え?何か言った?」

「ううん、なんでもない……ってか、もう時間ヤバいじゃん!浅野君、急ぐよ!」

「りょ、了解!!」


 そして、奥野さんとの朝食の時間は、やたら賑やかに過ぎていった。


 *******


「落ち着いて、私。明日は私のターン……」


「今日も長い1日になりそうね」



 

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