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「あ~ん」合戦

「ふぅ……危ないところだった」


「いきなりあんなこと言うから、鼻血が出たじゃない……もう」


「……いけないわ。私は教師、学校では理性を保たなければ……今更な気もするけど」


 *******


 あれから先生は何事もなかったように戻ってきて、普通に授業を続けた。一体どうしたんだろう。


「それでは今日はここまで」


 そして、授業を終えると、いつもより足早に教室を出ていった。

 ……あとで時間があれば聞いてみようかな。

 そう考えたところで、自分から自然と先生に話しかけようとしていたことに気づいた。

 1年の頃は、近づくのさえ躊躇うような高嶺の花だったのに……まさか、こんなに普通に接することができるようになるなんて。まあ、まだ緊張はするけど。当たり前だ。


「浅野君」

「あ、奥野さん」


 奥野さんは、僕の机の前に立ち、心配そうに包帯を巻かれた腕を見ていた。


「大丈夫?何か不便なことはない?」

「ありがとう。今のところは大丈夫。なんか心配かけてごめんね」

「謝らなくていいよ。ていうか、気遣いすぎ。こういう時くらい周りを頼ってよ」

「あはは……ほら、あまり甘えすぎて周りから嫌がられるのも嫌というか……僕ってほら、あんまり鈍感じゃないから」

「………」

「あれ?奥野さん、なんで頭をぐりぐりしてくるの?結構痛いんだけど……」

「これ?ただの頭皮マッサージだから、お気になさらず~」


 何故かチャイムが鳴るまで、ひたすら頭皮マッサージをされた。もしかして、そんなにやばそうだったのか……。

 もちろん、僕は無言の圧力により、それを受け入れた。


 *******


 昼休みに入ると、森原先生により、有無を言わさずに補習室へと連れていかれた。

 用件が何なのかはわかっているけど、補習室に連れていかれるのは、やはり変な気分だ。

 中に入るなり、先生は弁当箱を広げ、こちらの食欲を刺激してきた。

 彩りのいいおかずが、視覚的にも嗅覚的にも素晴らしすぎて、自分の手で食べられないことがもどかしい。

 そんなこちらの心情を見透かしているのか、先生は唐揚げを箸でつまみ、こちらに差し出した。


「はい、あーん…」

「…………」


 ぱくりと頬張ると、やっぱり美味い。美味すぎる。甘辛だれと鶏肉の味が絶妙に絡み合って、早く白いご飯が欲しくなる。


「美味しい?」


 そう言いながら無表情で首を傾げる先生はの目は、いつもより優しい光が宿っていた。

 ……我ながら、こんなシチュエーションに遭遇しているのが不思議でならない。なんて考えていると……


「あらあら~、二人とも仲がよろしいようで~」

「「っ!?」」


 突然の第三者の声に、僕と先生は思わず椅子から転げ落ちそうになった。

 すると、いつからそこにいたのだろうか、新井先生がにっこり笑顔で、僕と先生の背後に立っていた。こ、この人、どうやって入ったんだろう?忍者か?


「……催眠術をかけておいたのに」

「え?」


 今すごいことを聞かされた気がする……先生、たまに催眠術がどうのこうの言ってるけど、冗談ですよね?


「ほら、何度も先生に催眠術かけられてるうちに、免疫が~」

「なるほど、油断したわ。あと何度もとか言わないようなに。新井先生に三回しかかけてないわ」

「…………」


 二人はよくわからない会話をしているが、それについては一切触れないほうがいいと、僕の直感は判断を下していた。

 それより今は……


「これは、腕が使えない浅野君が食事をしやすいように、お世話をしていたのよ。だから決して新井先生が思っているようなことではないから、勘違いしないように」


 先生はいつもより早口で捲し立てるように、新井先生に言い聞かせた。

 しかし、新井先生は笑顔のまま、僕の肩に手を置いてきた。


「私も浅野君のお世話がしたいから、混ぜてくださいよ~」

「そ、それは……愛人になりたいということかしら?しかし、そういうのは認められないわ。他を当たってください」

「はい、あ~ん」


 森原先生が、何やら小声でぶつぶつ言ってるうちに、新井先生は箸で卵焼きをつまみ、こちらに差し出してきた。

 そのまま頬張ると、やはりこっちも美味い。


「ふふふ、美味しいですか~?作ったの私じゃないですけど~」

「…………」


 ひとまず新井先生の言葉に頷くと、何故だろう……こっちを見る森原先生の目がじとーっとしているんですけど。

 すると、すかさず新井先生から箸を取り返し、白いご飯をつまみ、僕の口の中に突っ込んできた。


「っ…………」


 そ、そんないきなり?と急いで咀嚼していると、今度は新井先生がウインナーを突っ込んできた。いや、だからペースが……。


「新井先生、ペースが早いわ。ここは私一人で……」

「え~、浅野君の独り占めはずるいですよ~。それに男の子はこのくらいへっちゃらですよ~、ねえ?」


 新井先生、男の子を過信しすぎです!このペースはやばいです!

 何故か二人が競うように食べさせてくるのを、必死に処理していると、こっそりと扉が開くのが見え、そこから奥野さんがひょっこりと顔を出した。


「失礼しま~す……って、な、何してるんですかっ!」


 奥野さん、た、助かったよ……。



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