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メイドVSメイド

「じゃ~ん!」

「…………」

「なんで無反応なの!?裕くん!!」

「いや、だって……」


 実の姉のメイド服姿とか、正直反応に困るんだけど……今母さんが帰ってきたらどうするんだろう。

 しかし、それがどうしたと言わんばかりに、姉さんは先生を指さした。


「じゃあ先生、勝負を始めましょう」

「勝負?」


 何だろう、今度はどんな方向に話が進もうとしているのか、さっぱりわからなくなってきた。何だ、勝負って……先生だって訳がわからないに決まって……


「わかりました。その勝負、受けて立ちましょう」


 受けて立っちゃった!何の勝負かもわからないのに!?何でこんなにノリノリなの、この人!?

 姉さんはその返事に満足したように、ニヤリと怪しげな笑みを見せる。


「ふふん、そうこなくちゃ!先生、私が勝ったら裕くんに変なマネさせませんからね!」

「そんなことしたこともかんがえたこともありません」

「清々しいくらいの棒読みで嘘つかないでください」

「…………」


 あれ?心なしか先生が押されているような……まだ勝負とやらも始まっていないけど。あと僕を置いて話を進めるのは止めてください。

 すると、先生がちらりと僕の方を見てきた。さっきの(生徒として)愛してます発言があったので、正直目が合うだけでも気恥ずかしい……。


「裕くん、顔赤いわよ?私にはそんな表情見せないくせに」

「うん。見せたらやばいよね。落ち着いて、姉さん」

「ええ。裕くんは正しい倫理観を持ち合わせていると思います」

「っ!」

「ちょっ……何さりげなく先生が裕くんって呼んでるんですか!」

「失礼。つい蛍さんにつられまして……」


 い、今かなりドキッとしたんですけど……もう1回言ってくれないかな。さすがにやばいか、色々と。


「これはさすがに我慢できませんね。お母さんにすら裕くん呼びはさせていないのに」


 元から呼んでいない。母さんのキャラからしてあり得ない。


「じゃあそろそろ勝負を始めましょうか」

「…………」


 姉さんと先生は立ち上がり、バチバチと火花を散らせる。無論、比喩だけど、不気味なくらいに熱量が伝わってくる。あれ、何なのこの空気?普段はほんわかしたノリのはずなんだけど……。

 もういっそ二人で食戟とかしてくれればいいのに……そうすれば、僕は審査員として美味しいものが食べられる。

 しかし、思うようにならないのが人生なわけで……


「さて、じゃあまずは……裕くんのお背中流し対決なんてどうですか?」

「望むところです」

「いやいやいや!なんか変な方向に話進んでない!?あ、あの、二人共、もう今日はこの辺で……」

「「……裕くん?」」

「はい……」

「さあ、裕くん?」

「じっとしてて」


 何だ、この圧力。とてもじゃないが逆らえそうにない。あと姉さんにつられているのか、先生のテンションがおかしい。

 黒髪と金髪がジリジリと距離を詰めてくる。四つの瞳に真っ直ぐに見据えられ、何故か影が縫いつけられたかのように動けずにいると、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。


「あっ、誰か来た!ちょっと出てくるね!」


 僕は突然の来訪者に感謝しながら、逃げるように玄関へと向かった。


 *******


 まさかこのタイミングで訪ねてくるとは……。

 訪ねてきたのは奥野さんだった。

 薄手のパーカーに膝丈のスカートという私服姿で、髪もポニーテールにしてあり、何だか新鮮な気分に浸れる。だが今はそれより……


「浅野君、どうかしたの?なんかそわそわしてる……」

「いや何でもないよ、奥野さん」

「そう?なんか、焦ってるように見えるけど」

「ああ、ほら、僕大体いつも焦ってるから」

「そ、そうだっけ?よくわからないけど大変だね……」


 何がなんでも居間にいるメイド二人を見せるわけにはいかない。今後の学校生活に関わる危険性がある。おまけに一人は担任の先生だし……こんなの見られたら、何言われるかわかったもんじゃない。


「それより、どうしたの?いきなり」

「はい、これ。この前借りた本。読み終わったから返しにきたの」

「ああ、ありがとう。あはは……ごめんね、わざわざ……」

「ううん。私が早めに返しておきたかっただけだし」

「そ、そっか……」

「それで、新しい本借りたいんだけど、その……上がって大丈夫?」

「えっ、あ、今、その……部屋散らかってて……」


 まずいまずい!こんな時に……!

 すると、居間からこちらに向かってくる足音がした……あっ、もうダメだ。 


「裕くん、お客さん?」

「…………」

「はっ!?メイド!?てか、先生何ですか、その格好!」

「メイドよ」

「知ってます!そういうことじゃなくて!」


 うん。こうなるの何となく知ってた。


 *******


 結局奥野さんも上がっていくことになり、現在居間に四人で顔を突き合わせている。

 姉さんはさっき先生に向けたような瞳を奥野さんに向けていた。

 しかし、奥野さんは気づかずに呆れた表情をこちらに向けた。


「まったくもう……何やってるんですか。二人して……浅野君、こちらのお姉さんは?」

「この人は……僕の姉さん」

「はい、お姉ちゃんです!」

「えっ、浅野君、お姉さんいたの?」

「そういえば言ってなかったっけ」


 姉さんはいつの間にか奥野さんの隣を陣取り、ずいっと肩が触れ合うくらい距離を詰めていた。


「奥野さん、と言ったわね。初めまして。裕くんの姉の蛍です。あなたは裕くんのクラスメイト?」

「あっ、はいっ、初めまして。奥野愛美です!」

「ふむふむ……裕くんに女子のお友達ができるなんて……油断していたわ。これはまとめてチェックしておかないと……」


 普通に自己紹介をしたかと思えば、姉さんがまた何やらぶつぶつ呟いている。やめて!なんか怖いから!

 とりあえず、もう日が沈みかけているので終わらせたほうがいいだろう。あとこのまま流されっぱなしなのもまずい……男として……。


「姉さん、とりあえず今日はもう解散ということで……ね?」 

「そうね。先生、対決はまた今度にしましょう」

「わかりました」

「た、対決って何!?」

「あはは……ま、まあ、色々と……」


 メイド対決は何とか回避した……のかな?危うく作品タイトルが変わるところだった……。

 しかし、僕はまだ気づいていなかった。

 もう既に二人の対決が始まっている事を。


 *******


「なるほど、蛍お姉さんは確かに厄介だね。私も何度も邪魔されたもん。一緒に寝ようとした時とか、一緒にお風呂に入ろうとした時とか」

「……どんな風に?」

「必ず間に入ってくるの。川の字の真ん中は蛍お姉さんになっちゃうの」

「そう……それは手強いわね」

「ところで……強力なライバルが現れたからって、小学生に電話で相談ってどうなの?お姉さん……」

「ごめんなさい」

「あと、私がライバルの一人だってことわかってる?」

「……ごめんなさい」

「ま、まあ、別にいいけど……確かに蛍お姉さんはお兄ちゃん攻略のための最大の障壁だし。まずはあの人に踏み越えてはいけない一線を教えてあげなくちゃ」

「若葉さんも色々と危険な気がするのだけど……」

「いやいや、お姉さんもだよね」

「…………」

「…………」

「もう遅い時間ね。若葉さん、早く寝なさい。おやすみ」

「う、うんっ!おやすみっ、お姉さん!」


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